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七つの宝から始まった「琺瑯」というモノ

七つの宝から始まった「琺瑯」というモノ

台所には様々な素材のキッチン道具が並んでいますが、昭和の時代、ガス台の上に載っていたのは花柄模様の両手鍋、またお婆ちゃんがぬか漬けを作っていた円筒形の保存容器など、そんなホーロー製品がキッチン道具の主役でした。
赤いマグカップにシンプルホワイトなボウル、ペパーミントブルーのスプーンなど今でも現役で使っています。
そんな丈夫な琺瑯がいつからあったのか、など気になり調べてみました。

琺瑯の歴史は古い

琺瑯(ほうろう・ホーロー)とは、さび止めや装飾のために金属器の表面に不透明なガラス質の釉(うわぐすり)を焼き付けて処理したもの、エナメル(Enamel)ともいうそうです。
難解な漢字の「琺瑯」の字をたどってみると、サンスクリット語(古代インド語)で七宝質のことを言う“フーリンカン”にさかのぼるという説があります。七宝とは、金・銀・瑠璃(るり/ラピスラズリ)・玻璃(はり/水晶や無色のガラス)・硨磲(しゃこ/白い珊瑚)・珊瑚(さんご)・瑪瑙(めのう)といった7種類の宝物のこと、もともとは装飾品や美術品として製作されてきたようです。
なので、工芸品の琺瑯は、七宝あるいは七宝焼きとも呼ばれていて、下地には主に銅、銀、金が使われています。(七宝焼とは、陶磁器と混同されますが金属の表面にガラスを焼き付けたもの)

琺瑯の歴史は古く、紀元前1425年頃にエーゲ海に浮かぶミコノス島で製作された加工品が発見されています。有名なのは紀元前1300年頃に作られたという現存している最古の琺瑯製品ツタンカーメンの黄金のマスクです。黄金にラピスラズリ(瑠璃)や鉱石を砕いたものを焼き付けることにより煌びやかな装飾が施され、3000年という歴史を経ても、今でも朽ち果てることなくその美しさを現在に伝えています。

ツタンカーメンのマスクと十二稜鏡
「ツタンカーメンの黄金のマスク」出典:Wikipedia、「黄金瑠璃鈿背十二稜鏡」を模した文鎮、本物は裏面が鏡になっています。

この技術がシルクロードを経て日本に伝わったのは飛鳥時代、仏具として渡ってきたといわれています。この頃の琺瑯(厳密にいえば七宝)は、高価な工芸品や装身具が中心で、庶民とは縁のうすい美術・装飾が主でした。
有名な作品は正倉院の黄金瑠璃鈿背十二稜鏡(おうごんるりでんはいのじゅうにりょうきょう)で、また桂離宮の襖の引手や釘隠しなどにも使われ、高貴な人々の装飾品として親しまれいました。江戸時代には香炉や刀のツバや印籠、煙草入れにまで用いられるようになります。
ちなみに、代表的なもので、徳川家康を祀った今では世界遺産の日光東照宮、拝殿の将軍着座の間の唐戸など至るところに琺瑯が使われているのだとか。

琺瑯が装飾としての七宝から別れて実用品として誕生するのは幕末の頃、1866年(慶応2年)に伊勢桑名の大鍋屋広瀬与左衛門が鋳鉄(2%以上の炭素を含む鉄を原料としている鋳物)琺瑯鍋をつくったのが最初です。1881年(明治14年)には東京上野公園を会場とした勧業博覧会(国内の技術を紹介する博覧会)に鋳物琺瑯を出展し、多くの注目を集めました。
1885年(明治18年)に大阪の小田新助によって鉄板琺瑯鍋が開発され、1890年(明治23年)には陸海軍の食器として使われるまでになりました。

昭和レトロな琺瑯鍋
花柄模様などデコラティブな装飾が多かった昭和の琺瑯鍋

以後、自動化の促進と研究の結果、次々と改良品や新製品がつくられ品質も格段に進歩し、琺瑯製品は、家庭をはじめ病院やレストラン、化学工場など、様々な場所で使われていきました。
日本の生活に根付くようになったのはここ130年ほどのこと。お鍋や容器や大型ストッカーの家庭用をはじめ病院で使用された洗面器など身近な素材になり、1970~1980年前半にかけ琺瑯業界は最盛期を迎えます。
しかし、昭和後期から平成にかけ、安価で軽い新しい素材のステンレスやプラスチックなどが出回りだし、琺瑯製品は徐々にその市場を失っていきました。

野田琺瑯ホワイトシリーズ

ところが近年、ホーロー製品の良さが見直されはじめ、その中でも最も知名度が高い野田琺瑯(1934年(昭和9年)創業)の角型保存容器ホワイトシリーズなどのホーロー製品が再び脚光を浴び人気となっているという。
出典:野田琺瑯株式会社

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琺瑯の特徴

琺瑯は鉄の表面にガラスを化学的・物理的に結合させたもの、なので両者のメリットを併せ持っているのが特徴です。
種類は、金属を溶かして鋳型(いがた)と呼ばれる型に流し込んで成形する鋳物(いもの)琺瑯と鉄の板を成形した鉄板琺瑯があります。鋳物琺瑯は鍋やスキレット(小さめ鋳物フライパン)などで厚手で重いものが多く保温性に優れています。鉄板琺瑯は保存容器やカップなど、薄手で軽く扱いやすいのですが、保温性はあまり高くありません。

長所としては…
◆傷がつきにくため耐久性が高く長く使うことができます。琺瑯は極めて硬く耐摩耗性も抜群、すべすべしたガラス質の表面は、汚れをサッと取ることができるので清潔感がある美しい外観が保てます。
◆釉薬を何段階にも分けて800~900度もの高温で焼きつけているので耐熱性があり、直火やオーブン・グリルにかけることができます。
◆厚い鉄の下地に熱伝導率の低いガラス質のホーロー層を重ねているため、熱を逃さず保温性に優れています。
◆表面がガラス質なので非吸着性が高く、臭いが付きにくいです。
◆ガラス質は中性、かつ不活性。中の内容物と絶対に化学反応を起こすことがなく安全です。なので風味が落ちにくいというメリットがあります。
◆永い年月が経っても色が変わらず、美しい色あいが楽しめます。
◆塩酸、硫酸、有機酸等に対して極めて強い耐酸性を持っています。
◆化学薬品などの腐食に強いため、耐食性が高いです。貯蔵や醸造用に使われるタンク類に最適。

短所としては…
◆鉄が下地でガラス質のホーロー層を重ねている琺瑯製品は、他と比べどうしても重たくなってしまいます。
◆表面がガラス質なので、衝撃や落下に弱く、落とした場合に欠けや割れが生じてしまいます。
◆安価で軽い新素材に比べ、やや価格が高いです。
◆電子レンジ加熱はスパークが発生して危険なので不可です。

琺瑯のポット

出典:「ホーローまめ知識」日本琺瑯工業会
出典:野田琺瑯株式会社
出典:琺瑯

最後に

琺瑯製品はキッチンウェアだけでなくインテリアとしても活躍してくれます。
例えばマグカップやピッチャーなどをプランターカバーとして、またアンティークな琺瑯のミルクポットを花瓶として使うとか、浅型の琺瑯バケツに掃除道具を入れてなど。
毎日のキッチン仕事や、幅広い使い方がある暮らしのアイテムなど、アイデア一つで気分が変わり楽しい気持ちになれそうです。

インテリアのもなる琺瑯製品
インテリアのもなる琺瑯製品

衛生面だけではなく、なぜか温かみのあるデザインは飽きないし、ひとつの容器を色々なシチュエーションにも使い回しでき、琺瑯製品はちょっとした注意事項を守れば耐久性があるので、長い目で見るととってもお得だと思います。

現在流行っているホワイトシリーズ、食材の色を生かすよう色は白が理想的…なのはわかりますが、料理があまり好きではない自分にとっては、やはりワクワク楽しくなるようなカラフルな鍋や保存容器を使いたいな、と思うのですね。

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