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チェックよりも歴史が古い日本の「格子柄」

チェックよりも歴史が古い日本の「格子柄」

最近は、アニメやら漫画の影響で市松格子の模様などが流行っていますが、格子縞(こうしじま)の一種類になります。

普段から何気なくチェックと総称している格子柄、日本では格子縞(こうしじま)と呼ばれ、名称の由来は、細い角材を縦横に間を空けて組んだ、窓や戸につける建具(格子)からきています。つまり、建具の格子のように、竪縞と横縞とが一定間隔で直角に交差して、構成する縞模様のこと、またその織物のことをいいます。
なお、“縞”の名は、16世紀以降にアジアの南諸島から伝えられた筋織を島物(縞物)と呼んだことからだとか。

洋装地のチェックと同じで縞の数、大小、精粗、色の組合せから、弁慶格子(大柄のギンガムチェック)、小格子(小弁慶格子・ギンガムチェック)、千鳥格子(ハウンドトゥース)、越(こし)格子(オーバーチェック)、市松格子(市松模様・元禄模様・チェッカー)、二筋格子(二重格子)、紅(こ)格子、翁(おきな)格子、碁盤(ごばん)格子などの多くの格子があります。

格子柄の種類

織物のもっとも基本的な模様であることから、その歴史は非常に古く、市松格子は古墳時代(3世紀)の埴輪の服装(袴部分)から、また平安時代から鎌倉時代にかけての絵巻に登場する人物が着用している衣服からも庶民から高貴な人物に至るまで広い層の人々に格子模様が使用されています。

この模様がとくに流行したのは江戸時代のことで、庶民の娯楽、歌舞伎の人気役者達の舞台姿から始まりました。芝居の興行を知らせるチラシのような役割を果たしていた芝居絵を売り出されたため、すぐに庶民の間に広まっていきました。役者絵に描かれたのは、当時の人気役者達の舞台姿をはじめ、楽屋での様子や日常の姿などであり、現代のブロマイドのような存在でした。
元禄期(1688-1704年)の頃には、歌舞伎が市井のファッションに与える影響はかなり大きかったようです。

歌舞伎の舞台衣裳で使った模様が評判を呼び、着物のトレンドとなったものもあります。
歌舞伎の役者名がついた模様で一番有名なのが「市松模様」ですが、前回書いたので詳しくはこちらをご覧ください。→「市松模様」に託された深い想い
人気役者の好みの舞台衣装がそのまま柄名となったものも多く、団十郎格子(三枡格子)、菊五郎格子、六弥太格子、高麗屋格子、三津五郎格子、市村格子、半四郎格子などがあり、粋なものとして役者の人気とともに愛されました。

「清書七以呂波 なつ祭 団七九郎兵衛 一寸徳兵衛」三代歌川豊国 画
「清書七以呂波 なつ祭 団七九郎兵衛 一寸徳兵衛」三代歌川豊国 画(1856年)出典:国立国会図書館

演目「夏祭浪花鑑」に登場する魚売り・団七九郎兵衛と俠客・一寸徳兵衛。義兄弟の契りを結んだ2人は、それぞれ柿色と藍色の色違い浴衣の双子コーデです。なお、豆腐を切ったようにも見えることから「豆腐縞」という異名もあります。

その中でも、モダンな模様で遠めにも目立つからか、弁慶格子(弁慶縞)というギンガムチェックは、多くの浮世絵にも描かれています。
弁慶格子は、歌舞伎の演目「勧進帳」に出て来る山伏姿の武蔵坊弁慶の舞台衣装にちなんだ名称と言われていますが、詳細は明らかではないそうです(実際は「翁格子」という格子柄を着用しています)。
2色の色糸を縦・横双方に用いて同じ幅の碁盤模様に織ったもので、格子の幅は二寸(約6㎝)と広く縦より横のほうが少し太くなっています。正式には白地にグレーと黒の黒系のみが弁慶格子とされ、色は紺と茶を「茶弁慶」、紺と浅葱(あさぎ/薄い藍色)を「藍弁慶」などと区別されています(白と紺や白と柿色などもあります)。

「縞揃女弁慶 鬼若と鯉」歌川国芳 画
「縞揃女弁慶 鬼若と鯉」歌川国芳 画(1844年)出典:国立国会図書館
「縞揃女弁慶 松の鮨」歌川国芳 画
「縞揃女弁慶 松の鮨」歌川国芳 画(1844年)出典:東京都立図書館
「縞揃女弁慶 一谷嫩軍記」歌川国芳 画
「縞揃女弁慶 一谷嫩軍記」歌川国芳 画(1844年)出典:東京都立図書館

「縞揃女弁慶」のシリーズは、江戸時代に大流行した弁慶格子の着物を着た少しお俠(おきゃん)な美人を描いた10枚揃いの連作です。このシリーズ全体が「弁慶」をテーマにした錦絵で、絵の内容も弁慶の説話にまつわるシーンを想起させる見立絵となっています。なお、紺屋(染物屋)に生まれた歌川国芳は衣装美への関心が強かったとか。このような浮世絵が女性たちのファッションリーダーの役割をしていたようです。

今風でいえば、タータンチェックやバーバリーチェック風の衣装もたくさん描かれています。

「見立多以尽 はやく水をあげさせたい」月岡芳年 画
「見立多以尽 はやく水をあげさせたい」月岡芳年 画(1878年)出典:国立国会図書館

「~したい」との言葉で女性のしぐさで感情を描いた美人画の20枚の連作錦絵の一枚です。柄は越格子のようです。

「風俗三十二相 はづかしさ(そ)う」月岡芳年 画
「風俗三十二相 はづかしさ(そ)う」月岡芳年 画(1888年)出典:国立国会図書館

「~そう」との言葉で女性の表情や特徴を描いた美人画の32枚連作錦絵の一枚です。柄は三升格子の変形でしょうか。

「本朝風景美人競 囲爐(紀伊国の若ノ浦)」歌川国貞 画
「本朝風景美人競 囲爐(紀伊国の若ノ浦)」歌川国貞 画(1830年代初頭)出典:ボストン美術館

白と紺の小弁慶格子を着た美人と日本各地の名所を小間絵に描きこんだ揃い物のうち1枚。藍摺りの名所の周りには吊灯篭(針金に板ガラスや色ガラスのビーズが装飾されたもの)が華やかで目を引きます。

歌舞伎では遊び人や勇みの人・荒ぶる人や艶っぽい人妻の衣装にも使われ、性格の強そうな人物が「弁慶格子」の衣裳を着ているようです。

子ども服などに使われる慣れ親しんできたあのギンガムチェックと同じ柄でありながら、まったく異なる印象の力強い感じの弁慶格子。舞台上でも映えて、なおかつ強い性格を印象付けるために、この、すっきりシンプルでいてメリハリが効いたデザインが効果的で必要だったのでしょう。

格子柄でいうと、あの「鬼滅の刃」の主人公が着ている市松格子(模様)、大きな柄と、色はおそらく歌舞伎の舞台で使われる定式幕の萌葱(もえぎ/ネギの芽の色・春に萌え出る草の芽)に似ていることから、幼さの中に力強さを強調し、これから成長し何かを成し遂げなくてはいけないことを出したかったのかも、と作者の意図は解りませんがそんなことを感じました。

出典:格子縞
出典:和柄・和の模様・和のデザイン〔格子〕
出典:縦横の縞が交差して描く「格子」

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