世間を楽しませているエンターティナー「ルパン三世」
ルパン三世といえば、言わずと知れたモンキー・パンチ原作の国民的な作品で、ご多分に漏れず自分も大好きです。
そんなルパン三世の最初は漫画からでした。
原作漫画は「漫画アクション」(創刊号)に1967年(昭和42年)から1969年まで連載され、アニメ作品に見られるジョークやギャグが少なく、ルパンは泥棒でありながら殺し屋でもあるダークなイメージで描かれたハードボイルド色の強い作品だったそうです。作風は、モート・ドラッカー(Mort Drucker/アメリカの風刺漫画家・イラストレーターで様々な分野のクリエーターに多大な影響を与えた)の影響を受け、ひょろりとした線で描かれる長身の登場人物で描かれています。
1971年(昭和46年)からはテレビアニメ化(現在までに第5シリーズまである)され、以降は映画、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)、ゲーム化などの各種メディア展開がされ、現在に至るまで幅広い層からの人気を得て愛されている作品です。
アニメの原型
ルパン三世のアニメの原型は、原作者のモンキー・パンチさんが子供の頃に大好きだった「トムとジェリー」だといいます。トムとジェリーの掛け合いのスラップスティック・コメディ(道化芝居、どたばた喜劇)が、そのままルパン三世の世界として採用しており、銭形警部はトム、ルパン三世はジェリーをモデルにしているそうです。
そして当時人気だったスパイ映画「007(ダブルオーセブン)」シリーズの影響も受けたそうで、作品に登場する腕時計や銃器、車なども実在するものが描かれることになったとか。
言われてみれば“ルパンと次元の口喧嘩”や“不二子の甘いトラップにひっかかるルパン”など「トムとジェリー」を連想させるネタが多い気がしますし、「007」のジェームズボンドのように相手の裏をかいて、颯爽と攻撃をかいくぐる姿に憧れた男子も多いはず。
トムとジェリーの詳しい記事はこちら→「トムとジェリー」は今でも人気!
魅力的な登場人物
アルセーヌ・ルパンの三代目
主人公のルパン三世はモーリス・ルブランの生んだ怪盗アルセーヌ・ルパンの孫という設定で、ルパンのモデルは映画「007」のジェームズ・ボンド(噂レベルの話ですが)ではないかと言われています。年齢は詳しく明かされていませんが、昔の作者のインタビューでは20代後半という設定で描いていたとのこと。
1971年の第1シリーズでは緑のジャケットを着用していましたが、1977年の第2シリーズからは赤のジャケットに変わりトレードマークとなっています。
盗みの頭脳と技量に関しては天才的で、変装の名人、女好きで騙されやすい三枚目なキャラでもありますが、これは第2シリーズで定着したキャラクターになります。
愛用の拳銃はワルサーP38(実はこのモデルガンを持っていた)。愛用のタバコはジタン・カポラル、原作で“日本では出回っていないタバコで、ルパンしか吸わないもの”と銭形が話しており、これを元にスタッフが、当時、日本に輸入されていなかったフランスタバコの中からジタンを選んだとか。
ルパンの愛車は、第1シリーズのメルセデス・ベンツSSKから第2シリーズはアルファロメオ・6C1750・グランスポルトに変更。この他にもMiniや前作終盤および映画『ルパン三世 カリオストロの城』にも登場したフィアット・500など、多彩な車が描かれています。
驚異的な速撃ちの次元大介
ルパンの相棒、次元大介のモデルは、アメリカ映画「荒野の七人(1960年)」のメインキャラクター、ブリット(ジェームズ・コバーン)だとか。ちなみにブリットの吹き替えと次元大介の声はどちらも声優の小林清志さんが演じています。
S&W M19コンバット・マグナムを使う寡黙でクールな凄腕ガンマン、イタリアのボルサリーノ製の中折れ帽子がよく似合うイメージが定着しているクールでシニカルな言動を崩さない性格のキャラクターです。拳銃を持っていない状態から弾丸を発射するまでのスピードが驚異的に速く、その速さは「速撃ち0.3秒」とまで言われている、面倒見がよくて仲間思いの頼もしい人柄です。
ネーミングの由来は、四次元などの「次元」という言葉が好きだったから名付けたとか、「事件大好き→じけんだいすき→じげんだいすけ→次元大介」になったとか、らしいです。
身長は178㎝、体重は70㎏、好きな酒はバーボン・ウイスキーとスコッチ・ウイスキー、好きな食べ物はグリーンピースとベーコンを炒めたベーコン豆、そして喫煙シーンがよく似合う男として有名な彼の愛用のタバコはアメリカのPALL MALL(ボールモール)又はマールボロ、時代が変わりアニメの中でも喫煙者(嫌煙家団体により省かれる)が肩身の狭い今の世の中、次元大介だけはコソコソせずに堂々とタバコを吸っていて欲しい…と思う次第です。
刀ですべて切り捨てる石川五ェ門
常に和服、時代錯誤な口調や思考、常人離れした居合の技、女子が弱点、髪型は長髪という設定で描かれているキャラクター、五ェ門(第2シリーズから五右ェ門)は、安土桃山時代の盗賊の首長であった石川五右衛門の13代目の末裔という、白鞘の日本刀「斬鉄剣」を使う剣の達人で、徒手格闘においても空手の免許皆伝という腕前の、凄まじい戦闘力の持ち主。剣の流派は逆手(さかて)を多用しており(現実では技の一つとしてあっても逆手メインの流派は存在しない)、示刀流(空手?)なる流派に所属していたが、袂を分かっています。また“蜻蛉の構え”と呼ばれる一撃必殺で有名な示現流(じげんりゅう/薩摩藩を中心に伝わった古流剣術)の構えを取る事があり、この流派の心得もあるのかもしれません。実際に斬ったものとしては、弾丸、砲弾、自動車、ビル、戦車、戦艦、戦闘機、ミサイル、スペースシャトルなどがあります。(こんにゃくは切れないらしい)
原作では第28話、アニメでは第1シリーズの第5話目からルパンので敵として登場し、途中から仲間としてルパンと一緒に行動をします。泥棒を生業としているとはいえ、根が真面目な性格なので、ルパンの狙うお宝があまりにくだらない物であった場合や、くだらない理由の盗みであった場合などは協力を拒むことも多い、盗みの仕事よりも剣の修行を重要視する魅力的なキャラです。
なんかドキドキする峰不二子
峰不二子の有名なシーンで印象的なのは、第1シリーズのエンディングで不二子が夕日の荒野をバイク(ハーレーダビッドソンWLAベースのカスタム車)で走る場面です。そんな不二子のモデルとなった人物は、小説「三銃士」に登場する女スパイのミレディー、「007」のジェームズ・ボンドの敵役のガールフレンドや敵国の女性スパイ、通称ボンドガールもモデルにしているそうです。だからなのか、サイズは身長167cm、バスト99.9cm、ウェスト55.5cm、ヒップ88.8cmというナイスバディ。愛用している銃はベルギー製のFN ブローニングM1910、ルパンからは「謎の女スパイ」とも評されています。ネーミングの由来は、作者の部屋にあったカレンダーに載っていた“霊峰富士”からだとか。
金と宝石をこよなく好み、目的のためなら相手を裏切ることも簡単に行い、ルパン相手でも平気で裏切ったりします。だから次元や五ェ門からの信頼は限りなくゼロ、ですが対するルパンは“裏切りは女のアクセサリー”と基本的に許していて彼女の頼みを概ね聞いてしまう、不二子との戯れ合いとして楽しんでいる節もあります。
物欲や所有欲こそ旺盛ですが権力欲や出世欲は一切なく、誰もが認める美貌の持ち主で妖艶な悪女、男女共に人気があるキャラクターです。
「とっつぁん」こと銭形警部
野村胡堂の小説「銭形平次捕物控」の主人公銭形平次の第6代目(アニメでは第7代目)に設定されている、ルパン三世逮捕を念願とする警視庁の銭形警部こと“とっつぁん”。下の名前は“幸一”ですが、実はモンキー・パンチは“銭形平次”に引っ掛けて“平一”と書いたつもりのものが悪筆のため編集者が“幸一”と読み違えたことからこの設定になったと言う。
アニメ版の第2シリーズ以降でICPO(国際刑事警察機構)にルパン専任捜査官として出向、所属は総務局国際協力部第1課。警視庁所属ですが警察庁経由で埼玉県警に出向歴ありで「カリオストロの城」などでは埼玉県警の警官隊を引き連れています。
ベージュのバーバリー製トレンチコートと同色のソフト帽を主に着用。先祖代々伝わる十手を大事な宝物としており常に所持していて、愛用の銃はコルト・ガバメント(射撃の腕前は次元以上らしい)。愛用しているタバコはしんせいやハイライトで相当のヘビースモーカーだとか。
劇中では空気を読まない言動はもちろん、その際に起きる法律や倫理、周囲への損害も大抵無視で、そうした件で上層部から非を指摘されても「結論=ルパン逮捕(すればいい)」と全く省みようとしないことも。しかし、ルパン一味とは奇妙な友情で繋がっていて、仕事熱心かつ真面目で正義感・責任感が強い人が良い性格の“濃い”キャラクターです。
再放送で人気に
ルパン三世・第1シリーズは、原作の持ち味を活かしたアダルトでハードボイルドな作風を前面に押し出し、当時のアニメとしては斬新なピカレスクロマン的な大人向けアニメでした、が視聴者には受け入れにくく、後半から演出を高畑勲と宮崎駿に交代して子供向けのアニメに格下げされ、誰が観ても楽しめるように軽快でコミカルな路線に変更された作品でした。視聴率もそこそこ持ち直したものの、結局は全23話で放送打ち切りとなってしまいました。
しかしその後、5年間も続けた再放送で「ルパン三世」という存在が再評価され人気が高まっていき、1977年~1980年までの3年間にかけて放送されたファミリーで楽しめるお色気とドンパチと痛快さのバランスがちょうど良い第2シリーズへ繋がっていきました。
カッコイイ!ルパン三世
初代ルパンは音楽や作画や声優など全般に渡って好きですが、まず最初に見たときに惹かれたのは構図のカッコよさです。“カッコよさ”という漠然とした概念を具体的に絵で表したものを見たときの感動がそこにはありました。たなびくスリムなスラックスから覗く極細の足首、また、腕毛やすね毛が描かれたアニメというのも斬新で、まだ男臭い男がカッコイイとされた時代ならではの“カッコイイ”の記号だったのかもしれません。
80年代に入ると、だんだんメンズファッションも中性的なものがウケるようになっていきますが、そういう意味でもルパン三世における“男”の描き方というのは時代を写していて、ルパンのいる世界は一見無国籍な異世界のようでいて意外と時代を反映していたのでしょう。
また、グラフィック的な面白さというと、ルパン三世ロゴの70年代特有のサイケ感とか、オープニングでロゴに撃たれる弾丸の痕とか、サブタイトルのタイプライター音とか、今となってはどれも“ルパンっぽさ”を醸し出すエレメントになっている感がありますね。
冷静に考えると“泥棒という犯罪者”を主人公にした作品が国民的に愛されるようになったのも不思議な感じがします。この時代、手塚治虫のヒット作「ブラック・ジャック」がありますが、この作品もまた法を逸脱した無免許の天才外科医が主人公でした。70年代あたりの漫画には、こうしたそれまでの品行方正な“正義の味方”像がかならずしも子供のヒーローでなくてもかまわないんだ、というパラダイムの転換を感じます。ルパンは単なるアンチヒーローではなく、ある種の“自由”の象徴でもあり、そこに人々は憧れ惹き付けてるのではないか、とふと思いました。
そしてなぜか泥棒を天職みたいにして世間を楽しませているエンターティナー、それがルパン三世なのかもしれません。ルパンの犯罪をもどこかファンタジーな魔法と同じ扱いで見ることができるために、安心して子供も楽しめるような作品になってるのかもしれないですね。
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