金モールエンブレムから視る「トラッド」
この金モールエンブレムを見ていると、トラッド、ネイビー・ブレザー、そしてアイビールックと繋がっていくように感じてしまいますが、そもそも何故このようなエンブレムを付けるのか、気になりました。
ということで、いろいろと紐解いていきます。
「トラッド」とは
トラディショナル(Traditional)という単語からできた和製英語で、流行に左右されない伝統的・保守的な英国紳士の上流階級向けの着こなしをベースにしたファッションです。
アメリカン・トラディショナル(アメ・トラ)は、その伝統的な雰囲気を守りながらも時代とともにトレンドを少しミックスさせ変化してきたスタイルです。伝統への敬意から、それにのっとった暗黙のルールがあったりします。
出典:トラッドとは?
ジャケットといえば「ブレザー」
ブレザーの語源には諸説があり、一つは19世紀中ごろ英国海軍のフリゲート艦ブレイザー(ブレザー)号の艦長が、濃紺のジャケットに真鍮(しんちゅう)ボタンを付けて下士官に着させたという説と、イギリスのケンブリッジ大学とオックスフォード大学の1877年に開かれたレガッタ(ボート競技)定期対抗戦の時、ケンブリッジ大学のボート部員が全員で赤いフランネルのジャケットを着ていて水に映え鮮やかだったことからブレイズ(炎=blaze)のようにみえ、転じてブレザーと呼ばれるようになったという由来もあります。
英国海軍の起源説はダブル(ダブル・ブレスト)のブレザーで、こちらの方が古いそうです。即位間もないヴィクトリア女王がこの軍艦を訪問した時その制服を喜ばれ、凛々しいイメージと共に民間にも徐々に広まっていったそうです。
前合わせがダブルの上着の起源は、ポーランド騎兵の乗馬の際に風が入らないように前合わせがダブルとなった服装からと言われていて、カラーのネービーブルー(濃紺)になったのは、19世紀初頭プロイセン軍の軍服であったプルシアンブルー(紫色を帯びた暗い青色)のフロックコートからきているそうです。
「リーファー(士官候補生の俗称)ジャケット」(ネイビーブレザー)とも呼ばれ、今ではほとんどの海軍及び沿岸警備隊に制服として採用されています。
シングル(シングル・ブレスト)のブレザーはカレッジスポーツが起源で、ボート部員が防寒用に着用するゆるめのフランネルのジャケットを、どのボートクラブか遠方からでもすぐ認識できるように派手な色やストライプ柄を用いた、記号と機能が両立した服でした。
フランネルといえば、柔らかくて暖かな毛織物で厚めの布のことを指します。別名「フラノ」とも呼ばれます。
19世紀半ば頃には各スポーツチームも着用するようになり、1890年までにはフランネルのルーズフィットなカジュアルジャケット(当時はカラフル)をブレザーと言うようになりました。
20世紀に入るとアメリカのアイビーリーグの大学もブレザーを採用するようになります。
出典:ブレザー
ブレザー(blazer)
出典:ブレザー
テーラード型(素材・型・仕立て方などが硬く、しっかりと仕立てられたもの)のカジュアルなジャケットの一つで、シングル・ブレスト(片前)とダブル・ブレスト(両前)があり、濃紺の布地と金属製(メタル)ボタンの組み合わせが一般的です。
もともとはウールのフラノの布地にメタル・ボタンやエンブレムを用いたものが基本でしたが、現在では素材や色・デザインなどのバリエーションが広がっています。
「エンブレム」とは
金・銀モールエンブレム(ドイツ語ではワッペン)は歴史的には紋章の一種であり、家紋や旗印や小冠(しょうかんむり)等の種類がありました。
ある時は兵士の階級の区別の為に使われていたとされ、その後紋章は貴族の伝統・家柄等を示すシンボルへと変化し、現在では学校や所属クラブのシンボル的な扱いとして又ファッションアイテムとしてブレザーの胸ポケットに取り付けられたり、また単体でアクセサリーとして使用されています。
その発祥背景ゆえに風格、キッチリ感、礼儀正しさなどのイメージが強いので、格の高いアイテム、好印象ファッションとして根強い人気があるそうです。
出典:エンブレム
つまり、大学やクラブのマークや紋章をデザイン化したもの付けたり、軍服のブレザーにもその部隊の決まったエンブレムがあったりと、ユニホームから派生したひとつのファッションだったのですね。確かに、胸のポケットにワンポイントあるだけで地味目のブレザーが華やいで見えます。
「アイビールック」とは
1954年にアメリカ名門8大学によりフットボール連盟が結成され、各校には校舎の壁に生い茂る蔦(つた=アイビー)がシンボルとなっていた事から「IVY LEAGUE(アイビーリーグ)」とネーミングされました。彼等が好んで着ていたファッションを1955年に国際衣服デザイナー協会が「アイビールック」と名づけたのが始まりといわれています。
日本でもそのスタイルは有名雑誌などメディアに取り上げられたことにより若者に浸透し流行します。1964年ころには、アイビールック(アメリカントラディショナルスタイル=アメ・トラ)の要素を取り入れたスタイルの学生たちが銀座のみゆき通りに集まるようになり、「みゆき族」と呼ばれ社会現象ともなりました。
特徴的なアイテムは、シングルの3つボタンジャケット(紺のブレザー=紺ブレなど)、ボタンダウンシャツ、ポロシャツ、コットンポプリンパンツ(綿素材で平織りされた薄手のパンツ)、バミューダパンツ、ローファー(コインローファー)など。
ブランドではアイビールックの火付け役「VAN(ヴァンヂャケット)」と、「JUN(ジュン)」、「NEW YORKER(ニューヨーカー)」、「REGAL(リーガル)」、「J.PRESS(ジェイプレス)」、「Brooks Brothers(ブルックスブラザーズ)」、「G.H.Bass(ジーエイチバス)」などがあります。
出典:アイビールック徹底解説
イギリスやアメリカの上流階級のスタイルが基になっているトラッド、その普遍的な服装は昔も今も変わらぬ“理想の男性像”として、そして“紳士”という名のダンディズムの憧憬的なファッションなのでしょうね。
また、フラノの紺ブレのポケット部分につけるエンブレムは、さり気なく個性を主張できる最適なアイテムだったのでしょう。
やはり、トラッドやアイビールックは清潔感があり聡明な感じがしてカッコよくみえますよね!なんとなく流行りそうな予感がします。
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