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値段もコテコテに盛りつけられた、地味だった「ホットケーキ」

値段もコテコテに盛りつけられた、地味だった「ホットケーキ」

喫茶店などで出てくる、ちょっと昭和レトロ感の漂うスイーツ、ほのぼのとした素朴なおいしさで幼いころの懐かしい思い出の郷愁が大きいかもしれない菓子パンのような食べ物、というホットケーキについての話です。

日清ミックスホットケーキ
1965年(昭和40年)日清ミックスホットケーキ(日清製粉)広告。出典:Flickr

ホットケーキは、英語圏では「パンケーキ(pancake)」「グリドルケーキ(griddle cake)」などとも呼ばれ、日本では厚みがあり甘いものを「ホットケーキ」、糖分を控えベーコンやスクランブルエッグなどをのせて食べるものを「パンケーキ」と呼ぶ傾向があります。
一応、辞典では、“パンケーキには、薄く焼いてたたんだり巻いたりするクレープ、厚めのホットケーキ、型に入れて焼くワッフルなどがある(百科事典マイペディア)”とあるのでパンケーキの一種という括りのようです。

歴史はというと古代エジプト(紀元前3000年頃-紀元前30年頃)まで遡るといわれ、「pancake(パンケーキ)」の言葉は15世紀頃にイギリスで刊行された料理本から登場しているそうです。

日本においては1884年(明治17年)の『百科全書』に「pancake(薄餅)」のレシピが記載され、この時期に伝わったとされます。
初めてホットケーキが洋風生菓子として登場したのは関東大震災があった1923年(大正12年)の2か月後のこと。東京日本橋・三越百貨店のデパート食堂に「ハットケーキ」という名前でメニューに掲載されました。これは別々に焼いた2枚を重ねてシロップをかけ、賽(さい)の目切りにしたバターを上にのせて、ナイフとフォークで食べるもので流行ったそうです。

その後、必要な原材料をあらかじめ混ぜておくという「プレミックス」という形がアメリカで盛んであることに目をつけた日本の食品メーカー「ホーム食品」が、1931年(昭和6年)に子どものおやつとして無糖ホットケーキの素「ホームラック」を発売、これがホットケーキミックスの第1号となりました。ただし、蒸しパンや饅頭にも利用できるような砂糖が入っていないものだったので、あまり普及しなかったようです。

ちなみに、「ホットケーキ」という名称は「ホーム食品」の社長が命名した和製英語で、日本にはすでにパンがあり、それらと区別するため温かいうちに食べることから「ホットケーキ」となったのが命名の由来とされています(諸説あり)。なお、「パンケーキ」のパンとは“底が平たい鍋”という意味だとか。ついでに、ふわっとした高さのあるホットケーキは日本生まれのようす。

森永ホットケーキの素・森永ホットケーキミックス
1957年(昭和32年)「森永ホットケーキの素」(チューブ入メープルシロップ付き 180円)、1959年(昭和34年)「森永ホットケーキミックス」(メープルシロップなし 100円)が発売。出典:森永ホットケーキミックス

1950年頃には加糖タイプのホットケーキミックスや塩味のパンケーキミックスが発売され、食生活の洋風化にもマッチして一般に浸透していきました。
1957年(昭和32年)になると日本でプレミックスが本格的に生産されるようになり、製粉会社や製菓会社が様々なプレミックスを開発するようになり急速に普及し始め、1962年(昭和37年)には主だったところだけでも17社がホットケーキミックスを発売していたそうです。

中でも人気を博していたのが、1957年(昭和32年)に森永製菓が発売した「森永ホットケーキの素」、ホットケーキの名称を確定させる一因ともなり大ブームになりました。
なお、発売時の値段は450gで180円、キャラメル一箱が20円・かけそば一杯25円の時代だったので、かなり贅沢なおやつだったとか。

ブームになった背景には、食の洋風化と共に作る上での手軽さがあったようです。1950年代後期から60年代にかけてフリーズドライ食品や冷凍食品が次々と登場し、食のインスタント化が急速に進んだ時期、ホットケーキミックスもまたインスタント食品のはしりでした。
ちなみに、森永製菓は「インスタント」という言葉を世に知らしめた先駆者でした。発売の翌年には「森永ホットケーキの素」のパッケージにインスタントマークを表記、その1年後には日本初の国産インスタントコーヒーを発売しています。

その後、ホットケーキミックスの売り上げ規模は年々伸長し2010年にピークを迎えます。以後減少していきましたが2017~18年から再度微増(ピーク時と比較して17年には4分の3に縮小した。森永製菓調べ)、2020年には前年比200%以上の伸びになりました。この時期はコロナ禍で家庭内消費需要が高まったものの、今後、飲食店の営業自粛要請が緩和されると消費の流れが変わるかもしれません。

外食業界では、日本では長らく「ホットケーキ」と呼ばれ、喫茶店のサイドメニューとして不同の人気を誇っていました(“喫茶店で人気”ということは、たいへん地味な食べ物であった、かも)。
平成後半(2010年頃)に入ると、ハワイなど海外の有名パンケーキ専門店が日本に進出し、それを模倣した店が日本で次々とオープンするなどしてパンケーキは一躍注目の的となりました。従来のホットケーキが厚手の生地にバター・ハチミツなどを乗せた程度のシンプルな食べ物であったのに対して、このパンケーキは、薄手で形や焼き方もやや雑な生地に、果物・目玉焼き・ベーコン・アイスクリーム・生クリーム・ココナツクリームなどをコテコテに盛りつけ、それをいいことにお値段もコテコテに盛りつけて、デザートでも軽食でもいける食べ物として提供されパンケーキブームが起きました。
以後、少し進化したパンケーキが登場し続け、それなりに話題になっているようです。

バターとハチミツがかかったホットケーキ
バターとハチミツがかかったホットケーキ。出典:パブリックドメインQ

現在でもホットケーキミックスは、ホットケーキに限定しない多種多様な使い方ができ、自宅で楽しめるお菓子としても親しまれいますが、パンケーキ専門店は出尽くした感があるし、これだけではもう行列するほどのブームは厳しいと思われます。パンケーキ・ホットケーキ自体は定番カフェメニューとして残り続けていきそうですが。

気になる余談ですが…、日本の少子高齢化に伴う需要減少で大きな消費が見込めないことから、製粉大手3社(日清製粉グループ・日本製粉・昭和産業)はプレミックス需要が高まりつつあるASEAN地域へ事業比率を拡大しているそうです。それに加えて、TPP11協定や日EU・EPA協定の関税引き下げによる輸入品の二次加工品(パスタ・クッキー・製パン等)の拡大により、国内の製粉業界の規模が縮小する恐れもあるとのこと(業界動向サーチ/製粉業界)。
ましてや日本で消費される小麦の約9割が輸入頼み。これから異常気象(紛争等もあり)による穀物の食料争奪戦もあり、小麦及び小麦製品全般がかなり高騰するような、と危惧してしまうのですよね。

出典:コムギ粉の食文化史(岡田 哲 著/朝倉書店)
出典:食品産業事典 上 改訂版(日本食糧新聞社)
出典:ホットケーキ
出典:業界動向サーチ/製粉業界
出典:パンケーキ
出典:日本語を味わう辞典

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