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日本独特の香辛料「七味唐辛子」は郷土色豊か

日本独特の香辛料「七味唐辛子」は郷土色豊か

ピリリと味を引きしめて、蕎麦や湯豆腐など、料理の美味しさをさらに引きたてる七味唐辛子。
七味唐辛子の主役であるトウガラシ、元はコロンブスがアメリカ大陸を発見した頃に見つけ、スペインへ持ち帰ってヨーロッパで広まり、日本へは、1592年、豊臣秀吉の朝鮮出兵時に種子がもたらされたとする説や、それ以前にポルトガルの宣教師が紹介したという説があります。別名、蕃椒(ばんしょう)とも言います。

七味と七色

もともと関東地方では「七色(なないろ)」、関西地方では「七味(しちみ)」という具合に呼称が違っていたようです。ですから、七味唐辛子でお馴染みの浅草「やげん堀」では「なないろとうがらし」、略して「なないろ」とも言われます。
また、「七色」は乾燥させた唐辛子の粉を原料としたのに対して、「七味」は焙煎した唐辛子の粉を用いたという違いがあったようです。
このような事から名称を、1946年(昭和21年)に業界全体で「七味唐辛子」に統一されたという。

七味唐辛子の誕生

1625年(寛永2年)、江戸・薬研堀(やげんぼり)の“からしや徳右衛門 ” が、漢方薬を基に生薬を組み合わせて作ったもの「七味唐辛子」を売り出したことから始まります。薬研堀は現在の東京都中央区東日本橋一丁目あたりで、「薬研(やげん)」とは当時の薬(漢方薬)をすり潰す道具の事で、その名の示すように周囲は医者や薬問屋が集まっていた所だそうです。
当時、体によい薬を食のなかにも取り入れられないかと考案されたのが七味唐辛子でした。

七味唐辛子
「やげん堀」の七味唐辛子

当時の江戸庶民が好んで食べていた蕎麦とよく合ったことから飛ぶように売れ、他店でも製造販売するようになり、紫蘇(しそ)、海苔、生姜(しょうが)、菜種(なたね)、柚子(ゆず)を混ぜた七味唐辛子も登場しました。

この七つの薬味“生の赤唐辛子、煎った赤唐辛子、粉の山椒、黒胡麻、芥子(けし)の実、麻の実、陳皮(みかんの皮)”の多くは風邪にとても良く効く漢方薬で、江戸庶民が七味唐辛子をかけた熱い蕎麦を食べて風邪を予防していたのではないかと考えられています。
風邪でほてった体を蕎麦で冷まし、発熱による悪寒を新陳代謝促進作用のあるトウガラシで発汗させて解消する。科学的根拠の無い江戸時代に、江戸の人々は理にかなった風邪撃退法を実践していたわけです。このことからも七味唐辛子のルーツは医食同源といえそうです。
こうして薬効が期待される七味は、寺社の門前で販売されることが多くなり、やがて江戸の食文化と共に日本全国に広まっていきました。

七味唐辛子
川崎大師で七味唐辛子を売る屋台

なお、この「やげん堀唐辛子本舗」は、昭和18年に浅草に移り、浅草寺の近くにて395年余りを経た今でも“やげん堀七味唐辛子”の伝統を守り続けているお店です。
出典:『七味唐辛子』のお話

有名な日本三大七味の違い

江戸庶民の間で人気になった「やげん堀」の七味唐辛子はしだいに東京(江戸)から日本全国へと広がり、やがて長野の善光寺と京都の清水寺の参道に、その土地の食文化に適した独自の七味唐辛子を売る店が現れました。
それが江戸時代から続いている2軒の善光寺門前「八幡屋礒五郎(やはたやいそごろう)」(創業1736年)と清水寺門前「七味家(しちみや)本舗」(創業1655年)の七味唐辛子屋さんです。いずれも、参拝客が多く集まる寺院の門前で発展してきました。
旅の道中の常備薬として、故郷への土産として、かさばらない七味唐辛子は大いにもてはやされたことでしょう。

「やげん堀」「八幡屋礒五郎」「七味家本舗」で使われている七味の薬味の違いは下記になります。最も古い歴史がある「やげん堀」の七味の素材とちょっとだけ違うことが分かります。

やげん堀(東京)赤唐辛子(生)赤唐辛子(焙煎)粉の山椒黒胡麻陳皮芥子の実麻の実
八幡屋(長野)赤唐辛子(乾燥)生姜粉の山椒黒胡麻陳皮青紫蘇麻の実
七味家(京都)赤唐辛子(乾燥)青海苔粉の山椒黒胡麻白胡麻紫蘇麻の実

長野そして京都へと西に向かうにしたがって、辛味よりも香りを重視したブレンドになっているように思われます。

【やげん堀】は2種の唐辛子で辛さに深みを出し、香り高い山椒や胡麻の風味が特徴です。
【八幡屋礒五郎】は、辛味と香りの調和のとれた独特の味わいです。
【七味家本舗】は唐辛子以外すべて香りを持った素材を用い、香りを立たせています。

出典:七味家本舗/七味三都物語

関東と関西の食文化の違いに理由がありそうです。
江戸時代当時、関東では“蕎麦”、関西では“うどん”が最も庶民的な食べ物でした。蕎麦つゆが濃い口の醤油味であるのに対して、うどんは昆布やかつおの風味の薄口の醤油味であることが、「やげん堀」のは濃い口の醤油味に合うように辛味を強調したブレンドに対して、「七味家本舗」のは風味を大切にした薄口の醤油味に合うように香りの良い薬味を多くしたのではないかと考えられます。
また、「八幡屋礒五郎」に関しては、特徴的なものが“生姜”で、長野では寒い地方なので体を温めるため昔からよく食べられていたそうです。
このように、その土地の食文化の違いにより、使われる薬味の調合が工夫されてその店の特徴となって現れたのですね。

七味唐辛子
「八幡屋礒五郎」七味唐辛子、缶の唐辛子の一番上のヘタ(紫の部分)に合わせれば、出る口が現れます。「やげん堀」ひょうたん型の容器に入った七味唐辛子

最後に

普段さりげなく使用している(自分は好きなので使用頻度多し)七味唐辛子、日本人が発明した唯一のドライミックススパイスなのですね。
そして、地域により素材や製法にこだわって実はさまざまな味わいの銘柄があります。きっと、その土地で入手しやすい材料や郷土料理の味に合わせて、内容が変わったんでしょうね。
この七味も食の多様化や核家族化で減少傾向らしく、携帯型七味入れや製菓メーカーとコラボしたりパッケージをかわいくしたりと色々な取り組みをしているそうです。
時代ごとのライフスタイルに合わせて“七色”に変化をしなくてはならない七味唐辛子、食べる直前の“最後のひとふり”味わって食べたいと思いました。

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