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ウルトラマンも使っていた「シッカロール」

ウルトラマンも使っていた「シッカロール」

子どもの頃、夏のお風呂上りに母や祖母からベビーパウダーをパタパタと塗られ、塗られた部分の肌は白く乾燥した感じになり、サラサラとした肌触りはなんとなく気持ちが良かった…そんな記憶、ありますよね。
それは、赤ちゃんのスキンケアには欠かせないアイテムでもあり、大人のあせも予防や肌荒れ防止等にもよいもので、日本で初めて作られた「シッカロール」というベビーパウダーでした。

シッカロールの誕生

シッカロールとは、1906年(明治39年)に和光堂(当時は和光堂薬局)の売り出したベビーパウダーの商品名で、あせもやただれ防止に皮膚に塗布する粉末の皮膚殺菌剤です。世代によってはベビーパウダーのことを「シッカロール」と呼ぶ人もいるくらい、知名度が高いとか。また、「天花粉(てんかふん/天瓜粉)」とも呼んでしまうことも。
ちなみに「シッカロール」は和光堂の商標登録なのでそれ以外の製造会社のものはそう呼べず、「天花粉」はウリ科のキカラスウリ(天瓜)の根からとった白いデンプンを使用した日本古来のものなので別物です。そして、天瓜粉(天花粉)という言葉は、夏の季語にもなっており多くの俳句が残されていて、また江戸時代から明治の初めにかけては、おしろいの代用品としても使われていました。
なお、「シッカロール」は、ラテン語で“乾かす”を表わす“シッカチオ(siccātiō)”から名付けられたとのこと。

和光堂シッカロール

この商品の処方を考えたのは、同社の創業者の東京帝国大学(=東京大学)小児科の弘田長(つかさ)博士と同大学薬学科の丹波敬三教授でした。
当時の「シッカロール」の成分は、亜鉛華(あえんか)40%、タルク40%、でんぷん20%。亜鉛華は毒性のない酸化亜鉛で穏やかな消炎作用が特徴、タルクは滑石(かっせき)と呼ばれる鉱物を細かく砕いた粉末で医薬品や化粧品の他、チョークなどにも使われています。余分な汗を吸い上げて放散させるので、塗った時のヒンヤリはこの働きによるものだとか。
また、親しまれている懐かしい香りにはヘリオトロープ系(バニラのような甘い香り)の香料が使われています。

日本初のベビーパウダーという商品性に加え、いかにも学者が作ったモノとモダンな名称もまたインパクトが大きく、徐々に庶民の間にお風呂上りには「シッカロール」という習慣が普及していきました。
その後、和光堂はマスメディアを使った宣伝に力を入れていき、販売数や知名度が上がっていきます。輸入品や国産他メーカーが追随しますが、一度使った人たちの「シッカロール」に寄せる信頼は高く、そのブランドバリューはいささかも揺らぐことがなかったそうです。また、乳幼児だけでなく販売量の約3割は大人に愛用されたことが大きく、この傾向は現行商品でも変わっていないとか。

余談ですが、「和光堂」は日本初のベビーパウダー以外にも、日本初の育児用粉ミルク、日本初のベビーフードも開発しています。

和光堂シッカロール広告
1959年(昭和34年)の和光堂シッカロール広告、出典:Flickr

パッケージの移り変わり

110年以上のロングセラー商品なので、パッケージデザインの移り変わりも興味深いものがあります。
発売当時は、金太郎の腹巻をした子どもの図柄でしたが、1918年(大正7年)にはやや高さのある茄子紺に格子縞の入った母親と赤ちゃんが描かれたデザイン缶になり、昭和30年頃まで続きました。同じポーズですが、母親の髪型と着物の図柄は時代の移りかわりを敏感に表しています。その髪型は、明治後期の二百三高地髷(まげ)から大正中期の丸髷昭和の束髪洋髪パーマネントと変わっていきました。

和光堂シッカロール
パッケージの移り変わり、出典:シッカロール/日本家庭薬協会

1923年(大正12年)には布を花形にカットして3枚重ねにしたパフを入れた初の高級品「化粧シッカロール」を発売。缶には、“ゆあが里(湯上がり)”、“おうち古(内風呂)”といった表記が印刷されているので既に湯上がりにベビーパウダーを使う習慣が根付いていたのかもしれません。

戦前・戦中になると、「シッカロール」も物資統制の影響を受け、缶から曲物(まげもの)と呼ばれるボール紙の容器になりましたが、戦後の1955年(昭和30年)には黄色地に青い文字のふりかけ型、1959年(昭和34年)は、当時の著名なグラフィックデザイナーの大智(おおち)浩を起用したピンク色缶と図案化した赤ちゃんの絵柄の「シッカロールピンク」を発売します。
その後、続く1963年(昭和38年)には「シッカロール・ハイ」を、その4年後には「薬用シッカロール」を発売。この2つの商品は白を基調にした、蓋には赤ちゃんの愛くるしい写真が大きくあしらったデザインで、以降、1993年(平成5年)に文字だけのデザインへリニューアルされるまで継続されました。

特撮ものには必須

70年代の特撮もののヒーロー“ウルトラマン”の撮影やアトラクションショーにベビーパウダーは必要不可欠な存在だったそうです。
80年代以前のウェットスーツには現在のように布地が貼られておらず、ゴム素材のままで、そのままで着ると身体との摩擦が大きく、着にくく、下手をすれば破れてしまうこともあるので、ベビーパウダーを内側に振って滑りを良くしていたとか。なので必ず衣装とセットで梱包されていたそうです。

出典:和光堂
出典:ベビーパウダー
出典:日本家庭薬協会/シッカロール

和光堂シッカロール

これからの季節に

シッカロールの作用は、微細な粒子による毛細管現象で水分を吸い上げ、でんぷんによって湿度を適度に保ち、タルクによって皮膚表面を滑らかにします。乾燥させるのでなく、皮膚同士の摩擦を減らすことであせもやただれを出来にくくします。そして発売以来、シッカロールの成分は一貫して変わっていないという。
なので、かつては赤ちゃんのいる家庭の99%に「シッカロール」があったそうです。

最近では、住環境やオムツも良くなり、昔ほど赤ちゃんの酷いオムツかぶれは起こさなくなり、また子どもの減少等で市場は縮小しているそうですが、成人女性や高齢者向けなど幅広く展開しているとか。
特に高齢者向けは、制汗デオドラント成分と植物性保湿・除臭成分(柿タンニン)の配合で、汗やニオイをしっかり抑えサラサラとした肌触りを維持し、香料で加齢臭も抑えてくれるのでおススメだそうです。
他にも、植物生まれの自然派志向や清涼感抜群のファミリーで使えるもの、薬用シッカロールなどニーズに合わせて細かく商品があるので、これからの季節に家族でパタパタとやるのもよいかもしれませんね。

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