「縞模様」のヨコシマな歴史の不思議!
様々なモノに使われるデザインで縞模様があります。
縞模様とは、いく筋かの長い線が列をなした模様、英語では“stripe(ストライプ)”。
囚人といえば、なぜか上下縞模様の服を思い浮かべますし、縞模様自体に何か意味があるのかなと思い調べてみました。
縞模様の歴史
旧約聖書の一つ「レビ記」第19章19節に“2種で織った衣服を身につけてはならない”と記されていて、“動物繊維(毛)と植物繊維(麻)を混ぜてはいけない”と解釈してきたキリスト教の歴史において中世にだけは“2色の服を着てはいけない”という特異な解釈がされ、10世紀ぐらいには縞模様は忌み嫌われる者に貼られる目印のような役割を持たされていたようです。
それは当時の宗教画で、兄弟のアベルを殺したカインやイエスを裏切ったユダ、神の命に従わなかったイスラエル初代国王サウルなど、“聖書の悪役”たちは縞の衣装を着させられ描かれたことから推測できます。
そして中世で“悪魔の模様”とされた縞模様は、“聖なる領域”に対比する存在の者たちと結び付けられ考えられるようになり、社会的に蔑視された職業、死刑執行人・売春婦・道化師や囚人(ルパン3世も縞々着ている場面ありましたよね)、障害者、異教徒あるいは異教に転向した者などは縞模様の衣服を身に着けることを義務付けられていきました。この傾向は18世紀後半ぐらいまで続いたようです。なお、囚人服は20世紀に至るまでしばしば用いられたそうです。
余談ですが、動物で縞模様といえばシマウマ、英語でゼブラ(zebra)ですが、別に“おかしな奴”という意味深な意味が含まれているそう。
そのイメージが変わるきっかけとなったのは、アメリカの英国からの1776年独立と1789年フランス革命だと言われています。
アメリカの星条旗や当時は横縞模様であったフランスの三色旗の登場によってボーダー柄は一気に“自由の象徴”として人々に受け入れられていきました。プロパガンダの一環として、街中にボーダー柄の衣服を着用する人が現れるほどになりました。
その後、海軍の制服に採用されていたりしますが、縞模様を着せられるのは海軍のなかでももっとも下働きの水兵だったりと、まだ完全に縞模様に対する蔑視は抜けきれていなかったようです。なお、制服が青と白になったのは、フランス国旗の色に由来しているそう。
本格的にファッションとして認識されるようになったキッカケとなったのは、1889年フランスのセントジェームスの誕生です。漁師や船乗りの仕事着として誕生し、その後マリンスポーツウェアなどへよく使われ洗練されたイメージを作り上げていきました。
1910年、27歳だったココ・シャネルがフランスのリゾート地ビアリッツにてストライプのトップスにパンツをあわせた着こなしを披露し、当時の女性の心を鷲掴みしたことも大きなキッカケとなったと言われています。
そのフランスではストライプシャツ全般を“la marinière(ラ マリニエール)”と呼びます、“marinière”は船乗りのことで、海軍の水兵が着ていたことに由来しています。
縞模様の着物を着た女性(1798年)勝川春章 作 出典:メトロポリタン美術館
日本へは、奈良時代、正倉院に染織品の中に縞のものが見られますが、平安時代以降の公家の衣服には縞はほとんど用いられず、主に庶民や下級武士が用いたと考えられています。
それまで日本に存在した単調な縞模様はとても不人気でしたが、16世紀中頃から、日明貿易や南蛮貿易によって海外から日本に持ち込まれた縞模様は、江戸時代には人気の柄となり「粋」の象徴になったのだとか。また、鰹縞、よろけ縞、親子縞、子持縞、矢鱈縞など様々な名称の縞が生みだされました。
なお、縞模様は中世まで、横方向の縞を“段”、縦方向の縞を“筋”と呼んでいました。しかし、室町時代に、南蛮貿易で珍しい織物が持ち込まれ、その多くが段や筋や格子の織物であったことから、南の島々から舶載された織物を嶋物と呼んで、“縞”の字を当てるようになりました。
ボーダー柄ではない
日本では、縦の縞々を“ストライプ”、横の縞々を“ボーダー”と呼ぶ人も多いですが、ボーダーとは、英単語“border”のことで、“へり・縁(ふち)・境界(線)・国境(線)”を意味します、つまり境界線をはっきりとさせるもので、ストライプ(=縞模様すべて)のような柄を示すものではないということです。
勘違いの訳は、ボーダーソックス(左の画像)と呼ばれる靴下の端っこ(縁)にデザインが入っていることが理由で、海外でもこの靴下は“border socks”と言われます。他にもシャツの袖(そで)や襟(えり)の部分にラインが入っているものをボーダーといいます。しかし、ある日本人がこれを“ボーダー=横縞”と勘違いしてしまい、そのことから、日本では横縞のことをボーダーと呼ぶようになったと言われています。
なので、左の画像はボーダーソックス(border socks)、右の画像はストライプソックス(striped socks)となります。
強い柄の縞模様
「縞模様の歴史」ミシェル・パストゥロー著に、なぜ中世の人が縞文様を悪魔的と考えたかの理由の一つに「地と図柄を明確に区別しないために見る者の目を混乱させるような表面構造に対して中世人は嫌悪感を抱いていたようである」と、漠然とした視覚の問題をあげています。
確かに、縞文様のどちらが地でどちらが柄なのかは分からない、価値の逆転を生じさせる危険性をはらんだ境界が現れます。道化やトリックスター(神や自然界の秩序を破り物語を展開する者)好みの文様ですしね。だから“視覚を乱す”ことが“社会を乱す者”であり秩序に反する者として捉えたのかもしれません。
又は、ヘビやハチなどの有毒種は目立つ縞模様(警告色)によって危険性を誇示していると考えられていて、このことも関係しているのかもしれません。
現代では縞模様はポピュラーになりましたが、どちらかといえば子供や若い年齢層が着ている事が多い気がします。一般的な会社員などもあまり目立たない程度のストライプを着ている人はいますが、なかなか主張の強い縞模様を着ている人を見ることは少ないです。やはり未だに規律やルールという社会の規範に対してアイデンティティを誇示するため異質性を表す役割を持っているように感じます。
なんにしろ、横断歩道や踏切遮断機棒の縞模様は警告を表し、斑幕(まだらまく/紅白幕や白と黒の鯨幕など)などの縞模様は異質性を示し、注視される模様であることは確かですね。
出典:ミシェル パストゥロー「縞模様の歴史―悪魔の布」松村剛・松村恵理訳、白水社
出典:縞模様
出典:文様あれこれ「縞文様」
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