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悪霊も一緒になって襲来する恐怖の期間「お盆」

悪霊も一緒になって襲来する恐怖の期間「お盆」

お盆と言えば、子ども時代に田舎へ帰るたび浴衣を着せられ盆踊りに行った夏の楽しい思い出があります。どちらかというと縁日の方が楽しかったけど。

盆踊り

櫓(やぐら)の上に太鼓や笛などの楽器と歌い手が立ち、東京なら東京音頭、九州は炭坑節、大阪は河内音頭といったように、その土地に密着した音楽が演奏されることが多く、周囲を円形に周りながら単調な振り付けの踊りを繰り返すスタイルが一般的ですが、大通りを行進しながら踊るカーニバルスタイルのものもあります。

この盆踊り、お盆の行事の一つで、ルーツは平安時代に空也上人(“南無阿弥陀仏”の念仏信仰を弘めた僧)が広めた「念仏踊り」だと言われていますが、そのまたルーツは菅原道真公による「雨乞いの踊り」とされ、はたまた、お盆に以前は祖先の霊があの世の悪い友だちを引き連れてやってくるという、ある意味合理的な信仰があり、盆踊りはその連中を追い返すため、あるいは祖先の霊もふくめて早くあの世に帰ってほしいという願いをこめて踊られる、つまり「魔除けの踊り」だという説もあり…、真の起源はどこにあるのか不明です。

「五節句ノ内 文月」歌川国貞 画
「五節句ノ内 文月(3枚続き一部)」歌川国貞 画(1840年)出典:東京都立図書館

切り子灯籠の下で揃いの衣装で踊る女性達。盆踊りは先祖累代の精霊をはじめ盂蘭盆の有縁無縁の精霊を迎え慰めるための行事でしたが、次第に楽しみの娯楽要素が強まり、華やかさを増していきました。

「お盆」はというと、「盂蘭盆会(うらぼんえ)」が正式な名称で、盂蘭盆はサンスクリット語のullambana(ウランバナ)の音訳とされ、“地獄の世界で死者がうける逆さ吊りの苦悩を払うため供養”という意味のようです。
実はインドに盂蘭盆会はなく、5世紀前後に中国あるいは西域ででつくられたと思われる「盂蘭盆経(うらぼんきょう)」から発生した7月15日(旧暦)の中元節に行われる施餓鬼会(せがきえ)という行事が7世紀初めに伝わり、日本にあった魂祭り(たままつり/先祖の霊を家に迎えてまつる行事)の風習が習合して日本独自の盂蘭盆会になったと考えられています。

施餓鬼会とはその字の通り、餓鬼道に堕ちた亡者に食べ物を施し供養するもので、日本でもお盆の時期に行われることが多いですが、この供養は成仏できずにさまよっている無縁仏(餓鬼)に対するもので、先祖供養と直接の関わりはないそうです。
なお、餓鬼道は仏教の輪廻思想・六道(天道・人間道・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄道)の一つで、飲食しようとする食物はたちまち炎に変わるため飲食することができなくて、常に飢えと渇(かわ)きに苦しむ世界だとか。

六道輪廻図
「六道輪廻図」仏教の輪廻転生の考え方を一枚の絵柄にしたもの。上が天道で時計回りに人間道、畜生道、地獄道、餓鬼道、修羅道となっています。出典:TIRAKITA

記録では、推古天皇14年(606年)に「この年から始めて寺ごとに4月8日と7月15日に斎会(さいえ/僧尼を招いて午前中の食事を供する法会)をすることになった」とあるのが最初で、その「寺ごとに」と明記してあるのは“先祖迎えの儀式は寺の行事とする”とこの時に決めたからだとも言われています。そして斉明天皇3年(657年)には飛鳥寺の西に須弥山(しゅみせん)の形をつくって盂蘭盆会が催されたと伝えられています。
聖武天皇の天平5年(733年)には宮中で盂蘭盆供養が催され、それ以後は宮中の恒例の仏事となって、奈良・平安時代には毎年7月15日に公事となり、鎌倉時代からは「施餓鬼会」もあわせ行ったとされます。

日本では古くから1年に2度、初春と初秋の満月の日に祖先の霊が子孫のもとを訪れて交流する行事(魂祭り)がありましたが、初春のものが祖霊の年神として神格を強調されて正月の祭となり、初秋のものが盂蘭盆と習合して、仏教の行事として行なわれるようになったと言われ、8世紀頃には夏に祖先供養を行う風習が確立されたと考えられています。
つまり、正月に帰って来る祖先の霊は、死後33年以上たって和御魂(にぎみたま/柔和な徳を備えた神霊)になった霊であり、お盆に帰って来る霊は荒御魂(あらみたま)であって、ホトケとも呼ばれ怨霊的な性格が残っている霊といわれ、正月の行事は神道的、お盆の行事は仏教的と考えると分かりやすいとか。

この怨霊的というのは、道教の旧暦7月1日に地獄の蓋が開き7月15日の中元節には地獄の蓋が閉じる、という考え方の影響を受けていると思われます。関東では7月1日を「釜蓋朔日(かまぶたついたち)」と呼び、この日から先祖迎えの準備を始め、墓参りなどをしたようです。

時期としては、旧暦7月15日は新暦では8月中~下旬にあたるためと、地域によっては農繁期にあたり支障があったため現在では8月15日をお盆(月遅れ盆)とする地方が多く、関東などでは新暦でも7月15日に行われる場合もあったりと違いがみられます(全国的には8月13日~15日)。

お盆飾り、精霊馬と精霊牛
お盆飾り、精霊馬と精霊牛

茄子や胡瓜に4本の割り箸などを差して牛や馬に見立てたものを飾る地方もありますが、茄子は牛で胡瓜は馬を表現しているとされ、あの世から帰って来るときは馬に乗り、あの世へと戻っていくときは牛にのってゆっくりと、という意味があるようです。また、ご先祖様は馬に乗り、荷物を牛に載せるという意味もあるとか。

ということで「お盆」とは、7月あるいは8月に行われる祖先の霊を招いて供養する行事ですが、日本では2、3代前の祖先など、名前も知らないという人がほとんどなので、言い換えれば、身元のよくわからない死者を招いて饗応のまねごとをするという名目で夏期休暇を楽しむための行事、かもしれない(汗。
「盂蘭盆」の“逆さ吊りになっている人を救う”という意味からして、死者があの世からやってくる(蘇る)という恐怖のイメージをよく表しています。実際、昔の人々にとってお盆の行事は、祖先の霊もそれ以外の悪霊も一緒になって襲来する恐怖の期間でもあったようで、悪霊の魂を鎮め、早くあの世に帰ってほしいという“まじない”のために踊られたのが盆踊りだという考え方もあったりします。その意味で、この行事は欧米のハロウィーンに似ているかも。
お盆は旧暦7月15日を中心に行われますが、現在では8月15日を中心に行う地方が多く、ちょうどこの時期は子どもの夏期休暇にも当たるため、大人も便乗して休暇を取り、田舎の実家に帰ったり、家族旅行を楽しむのを習慣としています。しかし、ハードなスケジュールのために、骨休めをしたいはずの父親はほとんどゾンビのようになって休暇を終えるケースが多いようです(笑。

出典:盂蘭盆会
出典:施餓鬼
出典:盂蘭盆
出典:お盆
出典:日本語を味わう辞典

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