旅行を思い出す恐ろしいパワーを持った「ペナント」
旅行に出かけると目的地の名所や風景などを眺める目線がつい土産品店に行ってしまうことがあります。
お土産を選ぶことは、旅の楽しみであり、旅の目的の一つでもあったりします。
昭和40年代から50年代にかけて、お土産といえば、観光地の名跡や風景や名物などが刺しゅうやプリントで描かれている「ペナント」という時代がありました。
といっても昨今はペナント自体を知らない人も多いかもしれませんが。
「ペナント」とは、西洋の中世の騎士が馬上で持つ槍の先に付けた小型の三角旗「ぺノン」と、軍艦のマストにかかげる長三角旗の一種「ペンダント」の合成語だと言われています。
アメリカなどでは大学名やスポーツ名などを記した小さな三角形の旗が作られ、それが明治時代にスポーツの導入とともに日本に輸入され、多くの大学で製造されるようになりました。
当初は大学関連グッズでしたが、あるとき山岳部の学生が大学名の入ったペナントを山頂に立てたことをきっかけに、山小屋側が1950年代に山岳記念として製作し売るようになり、それが山以外の観光地にも広まるようになりました。いつしか、竿にくくりつけるための紐がなくなり旗としての機能は失われ、部屋の装飾品として独自の進化を遂げました。
たいていは二等辺三角形の長い旗。なお、プロ野球の優勝旗にも使われるため、リーグ戦をペナントレースと呼ぶそう。
(NHK『チコちゃんに叱られる!』で1958年に鎌倉市のタオルメーカによって開発された、とありますが、どちらが早いかは不明です)
「観光ペナント」はフェルトなどに山・湖・滝などの景勝や、城・寺社などの名所旧跡を描いたものです。多くは絵はがきを参考にしたようで、ダイヤゴールド糸を使用したものや周囲をフリンジで縁取り華やかさを演出したものなどあり、名所がドーーーン、名前もドーーーンと載っていて、これさえあれば、どこへ行ったか1発でわかるペナントでもあります。
これが全国の土産店で売れたのは、戦後の観光ブームが始まる1950年代から80年代前半にかけて。当時の旅人にはコレクターも多かったとか。今でも古いお土産屋さんに行くと売られているそうです(見かけることは少ないですが)。
昔はカメラがまだ高級品だった時代で、旅の証拠、旅行を思い出すための物という大切な任務を負わされていた「ペナント」も、もはや役割を終えたということなのかもしれません。
旅行から帰った後も部屋に強烈な印象を残すであろう「ペナント」、これ1つで部屋の印象をガラッと変えてしまう恐ろしいパワーを持っています。
ちなみに、購入したことはなく頂いたことはあるのですが、これらの理由から1分で飾ることをやめ、コレクション癖があるじいちゃんにあげました。
しかしながら「ペナント」は、あの狭い二等辺三角形にこれでもかと観光名所や地名が細かい刺繍で施されていて、広告としてインパクト大の完成度が高い(かも)昭和が生み出した芸術品なのかもしれませんね。
もらって嬉しいかは…どうでしょう。3月8日は「みやげの日」でした!(と誤魔化す)
出典:ペナント
出典:おみやげ編ペナント/朝日新聞
-
前の記事
部屋を仕切る日本生まれの「襖」 2020.03.09
-
次の記事
江戸時代から始まったおまけ付きの「置き薬」 2020.03.13