人生を凝縮した儚い「線香花火」
花火大会の打ち上げ花火もいいけど、庭先で、みんなでやる花火もいいですよね。
それまで華やかな手持ち花火や噴き出し花火で遊んでキャーキャー騒いでいても、最後は「線香花火」となり、みんなが寄ってきて屈み込み、パチパチ弾けて続く小さな火花に“キレイだねー”と言いいつつ、もう終わりかなと思ってもシュシュシュッと名残惜しくいい感じ…、あっ、落ちちゃった…。と、小さい頃の思い出です。
最近のはあまり変化なくすぐ玉が落ちてしまいます。この時、プチッときて束にして火をつけてたら、デカイ玉になることはなく(当たり前ですが)単純に燃えました(汗。
実は前回の花火大会の打ち上げ花火の浮世絵を探っていたら、お線香などを刺す香炉に、花火を刺して遊んでいる絵を見つけて、自分は細いこよりを持って下向きにして火を着ける線香花火しか知らなかったので気になり調べてみることにしました。
線香花火は、江戸時代前期に大花火(大規模な打上花火)の流行に伴って、子ども向けの玩具として寛文年間(1661-73年)に作られ始めたと云われています。
1680年(寛文10年)に発刊された俳諧『洛陽集』には、ワラの先端に火薬を付けた花火を香炉に立てて女性が遊んでいる様子が詠まれているので、遊び方は江戸初期には確立していたそうです。
この詠まれた線香花火は「スボ手牡丹(ぼたん)」と呼ばれるワラやアシの先端に火薬を塗ったもので、先端に火をつけてパチパチと火花を散らす姿を見て楽しんだものです。スボ手のスボはワラやアシのこと、牡丹は大きくきれいな花として美しく立派なものを形容していたため、その名になったとされます。
スボ手は最初、稲作の盛んだった上方で作られ、公家の遊びとして香炉の灰に立てて鑑賞していました。この様子が仏壇に供えられる線香に様子が似ていることから、線香花火という名がついたとの説があります。
それが江戸にも広まりましたが、関東地方では西ほど米作りが盛んでなかったや 江戸では河川が大きく護岸が整備されていたためアシやワラが採りづらいことから、ワラの代用品として和紙で火薬を包んだこより状の線香花火「長手牡丹」が、スボ手牡丹の登場より遅い1800年以降に広まったといわれています。なお、長手とは長く手でよる、という意味だとか。
そのなごりでスボ手は西日本の線香花火、長手は東日本の線香花火として親しまれ、そして現在は長手がスタンダードな線香花火として全国的に広まっています。
300年近く、ほとんどその形を変えていない線香花火、燃え方には段階があり人生に例えられるそうです。
点火とともに命が宿り、どんどん大きくなっていく火の玉(火球が震えている状態)の「蕾(つぼみ)」、「牡丹」はパチッパチッと一つずつ力強く散りだす火花、幼少期。「松葉」は四方八方に勢いよく火花が飛び出る青年期。「柳」は下の方に柳のようにしなだれた火花の状態になっていくのが熟年期。「散り菊」は小さな火花が散っては咲くような老年期。そして赤から黄に変わった火の玉が光を失った瞬間、線香花火の一生は幕を閉じます。というように、移り変わる表情に名前がついている花火は線香花火だけだとか。奥が深いですね。
しかし、国産の線香花火は、三河・北九州・信州が3大産地でしたが、1975年(昭和50年)頃から中国の廉価な輸入品が登場、1998年(平成10年)に国産は一時途絶えそうになります。そこで危機感を抱いた老舗花火問屋・山縣商店(東京都台東区)が中心となり、2000年に国産の線香花火「大江戸牡丹」を復活させました。
現在、線香花火の国内メーカーは3社、流通量は数パーセントにとどまりますが、海外産より火玉が大きく落ちにくく、火花も遠くまで飛び、蕾・牡丹・松葉・柳・散り菊と称される表情を楽しめて人気を集めています。その美しさは細かい職人技の賜物だとか。
なお、余ったら保存も可能で、熟成させると火薬がなじみ、火花が安定するそうです。また、長持ちさせるには、火薬部分の上部をもう一度より(ねじり)下斜め45度で先端にのみ火をつけるとよいとか。
線香花火は日本発祥で、非常に単純な花火でありながら「花火は線香花火に始まり線香花火に終わる」なんて言われていたりします。そして、線香花火のメインの効果である「松葉」(中央の火球から火花が次々に枝分かれしながら放射状に飛び広がる効果)は、SENKOHANABI Effect として海外にも紹介されています。
夜空にカラフルな6重の同心円を見せてくれる五重芯の菊型花火や直径800mに開発した世界一の四尺玉の打ち上げ花火、そして可憐な変化を見せてくれる国産の線香花火、どれもが日本にいなくては決して見ることのできない花火、確かに花火発祥の国でもないし生産量においても劣るけど、日本が類まれな豊かな花火文化を持った国で、国際的な評価は世界一だという。
一番身近で馴染み深い線香花火の日本産は稀少な高級品になっちゃったけれど、友人や家族と囲んで儚い夏の思い出として、こだわりの花火を日本のどこかで咲かせてみるのもよさそうです。
出典:線香花火/コトバンク
出典:線香花火
出典:風情が違う「西と東」2種類の線香花火
出典:花火と科学の接点
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