ぐりもん・ぐりん・ぐりぐりの「渦巻文」
鳴戸巻きを眺めていたら、うずまきナルト(漫画『NARUTO』に登場するキャラクター、好きなアニメです)を思い出して…(汗、そういえば渦巻文はいつできたのだろうか、とやっと自分の頭の中に渦巻きはじめたのでした。
ちなみに、鳴戸巻き(ナルト)とは、店で出しているラーメンが安くてチープでレトロな味わいであることを示すために乗せられる身分証明書的具材、金太郎飴のように切っても切ってもピンクぐるぐるが現れるピンクぐるぐるが魅力的なかまぼこの仲間。「鳴戸」という名前は、その渦巻模様が有名な鳴門海峡の渦潮を思わせるところからきているらしい、です。
波と波とがぶつかり合い交錯しながら流れていく渦潮を力強く描かれている、現在も観光地として有名な「鳴門の渦潮」、広重の傑作の一つです。
渦巻文とは、螺旋(らせん)形を描きながら、中心から外へ向かって広がっていく曲線文様のこと。
アイルランドのニューグレンジの巨石に刻まれた神秘的な渦巻文様はあまりにも有名ですが、この遺跡は約5000年前の遺跡と云われています。他にも、世界各国の紀元前3000年の地層からは、渦巻文様を記した器などが多く発掘されています。
なお、アイルランドのニューグレンジの複雑な装飾には、主として渦巻・山形・菱形などから構成されており、これらの文様が後にラ・テーヌ時代のケルトの職人に多大な影響を与えたと云われています。ケルト文化の渦巻文様で有名なのは、3つの渦巻が合わさっているトリスケル(トリスケリオン)。3本の脚が根元で合わさって走っているように見える三脚巴(さんきゃくどもえ)のデザインの元になったとされています。
日本でも、同時期の縄文時代に作られた縄文土器や土偶(どぐう)や土版(どばん)に刻まれた渦巻文様がありますが、原始時代のほとんどすべての民族に同時に発生したようで、これほど広く世界各地に分布した文様はないそうです。
それは渦巻がきわめて簡単な原始的な模様で、自然界にある動植物や海や川に現れる水の渦などからインスピレーションをうけたのでしょうか、眺めれば視線は自然に中心へと誘われ吸い込まれそうになる渦巻の求心的ないし遠心的な運動感が、共通してある種の神秘的な力を印象づけたためと考えらています。
なので、古代の人々にとって渦巻文様は、呪術的な効果をよりいっそう高めるために文様を加えたのかもしれません。
そして、アイルランドのケルトの渦巻きはキリスト教を受け入れた後も生き残り、聖書写本に、墓標に、日常にも描き続けられましたが、日本では、弥生時代以降になると、仏教美術の唐草の中に飲み込まれたかのように影をひそめていきます。
余談ですが、「白川静 漢字の世界観(平凡社新書)」によれば「神」という字の元の形「申」は、二つのつながった蕨(わらび)手の渦巻を表しているそうです。雷ももとは壘(ルイ・とりで・かさ・たか)の下の土を消した恰好で、この田の形は古くは渦の形象だったとか。雷雲は神霊の渦なのでしょう、三つ巴文様は雷神様の太鼓の文様ですが、そのせいか神道家の家紋に巴紋は多いようです。
渦巻文様は、ぐるぐると渦を巻いている文様ですが、漢字では「屈輪文」とも書き、“ぐりもん・ぐりん・ぐりぐり(そのまんま、ちょっと笑える)”と読みます。
鎌倉時代に宋より輸入された堆朱(ついしゅ/漆を塗り重ねて文様を彫刻したもの)などの漆工品に多く装飾として用いられ、また建築装飾やその他工芸品にも施された、渦巻文や雲文に似た曲線から成る文様のことです。
おそらくこの頃、他国から様々な文様が輸入され渦巻文の神秘的な力をしだいに失っていき、着物や帯の意匠にも雲文様や水文様、唐草文様などの文様にともなわれながらも、単一であらわされることが少なくなったのではないでしょうか。
近世以後は能、狂言の衣装や中形・小紋などの文様として、また庶民の着物や袴(はかま)の文様に取り上げられたりと長く賞用されます。
その渦巻き文様が再び脚光を浴びるのは、江戸中期の歌舞伎俳優・市村亀蔵(のちの九代目・市村羽左衛門)が渦巻柄を好んで着始めた大小の渦巻模様を散らした小紋柄で、「亀蔵(かめぞう)小紋」の名で親しまれ流行しました。
そして、明治時代後期の頃には、当時流行したアールヌーボーの文様とともに、斬新な文様として着物や帯などの意匠にも多く用いられたようです。
渦、螺旋のイメージとはなんでしょうか。水の渦、炎の渦、全く性質の異なるものに同じように出現する渦巻・螺旋の形象は古代人ならずとも神秘的です。
夏の浜辺で拾った巻貝の美しい螺旋構造に魅せられた人は多いと思います。それどころか、銀河からDNAまで、神を超えたの暗号のように太古の昔からひっそりと渦巻・螺旋はひそんでいます。無言の自然の無限の繰り返しの中に、恐ろしさと不思議さの感覚が渦巻文様の中に今もこだましているようです。死と再生の無意味な反復のこの世界そのもののように。
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