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「てぬぐい」を見直したら万能だった!

「てぬぐい」を見直したら万能だった!

剣道の面手ぬぐい(通常は“面タオル”という)でもお世話になっていますが、いつもそこにあり通常のもので、でも一体いつからあるものなのだろうか、と気になり調べてみました。

手拭(てぬぐい)とは、洗顔、入浴、被(かぶ)り物などに用いる木綿の布で、わが国独特のものです。手拭は字のとおり手をぬぐうために用いる布で、古くは“巾・手巾・手布・太乃己比”と書き「たなごひ」「たのごひ」「てのごひ」と読みました。
出典:日本大百科全書

手拭の歴史

平安時代初期に書かれた最古の説話集「日本霊異記(にほんれいいき)810-824年」の中に「銭米穀物を巾(たのこひ/布切れ、頭巾のこと)の上に施し置く」と既に記されており、諸説あるようですが、その原形は奈良時代とも言われています。

古くは麻や絹で作られた平織物でしたが、平安時代からは当時制定された養老律令(757年)の衣服令により、庶民は麻の手拭を、高貴な方は絹の手拭いを使ったようです。
今のような綿の手拭は、当時、綿が大陸の方から輸入されていたため絹よりも高価だったとか。

最初は、神仏の像や飾り付けなどの清掃を目的とした布として、平安時代には神祭具として身分の高い人たちの神事に身に纏う装身具として、鎌倉時代以降から庶民にも少しずつ普及し、室町時代には湯浴みの体を拭うためにも使われるようになり、戦国時代には広く用いられるようになりました。

江戸時代に入ると国内でも綿花が栽培されると、木綿の織物とともに生活用品としても庶民に欠かせないものになっていきました。
銭湯文化が根付いたことや、奢侈禁止令(絹の着物が禁止)で木綿の着物がよく作られるようになり端切れなどからも手拭が作られ、木綿の織物とともに全国各地に普及していきました。
また、江戸時代中期頃から「手拭(てぬぐい)」と呼ばれるようになり、入浴に使われたものは「湯手(ゆて・ゆで)」とも呼ばれたそうです。

手拭
「手拭売菊蔵 尾上菊五郎」「歌舞伎座新浄瑠理 風流扇手拭」豊原国周 画(1897年)出典:演劇博物館デジタル

手拭の大きさは、幅八寸(約24cm)、長さ三尺(約90cm)内外で、長いものは四尺・五尺とあり、入浴、汗ふき、被り物に用いられました。
被り物としてのかぶり方には、ほおかぶり・大臣かぶり・米屋かぶり・けんかかぶり・あねさんかぶり・巻かぶり・鉢巻などの種類があり、手拭を頭上にかぶるのは、塵除(ちりよ)け・深傷(ふかで)を負わない・寒暑を防ぐ・人目を避ける、などに用いられたようです。
また鉢巻、巻かぶりは頭をきゅっと締めることによって、気を引き締めるのに役だつとともに、額から落ちる汗が目に入らないようにするという利点もありました。

手拭
「大工六三 尾上菊五郎」「大坂角の芝居にて」男性がマフラーのように手拭を首に巻いています。歌川国貞 画(1897年)出典:立命館大学

砂ぼこりが多かったとされる江戸の下町などでは、帽子やスカーフの用途として、柄のおしゃれを競ったと言われています。(持ち寄った手ぬぐいのデザインを競い合う“手拭合わせ”という品評会も行っていたとか)
ちなみに、「襟巻き」という現代のマフラーのようなものもありましたが、ご隠居の老人や病人限定のアイテムだったそうで、それ以外の人は使わなかったとか。なので、寒い時には手拭がマフラー代わりでした。また、白無垢の花嫁さんが被っている「綿帽子」は、江戸時代には女性の外出用かぶりものの定番で、暖かくて柔らかく防寒用にももってこいだったそうです。
てぬぐいの端が“切りっぱなし”なのは、その用途や好みによって好きな長さで切り売りされたことが背景にあります。さらに実用品として、裂いて包帯や紐代り、履物の修理やモノを包んだりと、使い方は様々で万能アイテムでした。

手拭
「うゑ野の暮雪」御高祖頭巾(おこそずきん)という、女性専用の頭巾を被っています。歌川豊国 画 出典:メトロポリタン美術館
手拭
「夕寿豆美(ゆうすずみ)」手拭を両肩に廻している図。歌川国芳 画、「艶 發合」「女 みは」姉さん被り手拭をしている女性。朝櫻楼国芳 画 出典:メトロポリタン美術館

明治以後、タオルやハンカチといった西洋のものが使用されるようになると、日本手拭の使途は減少していきました。しかし、廃れたわけではなく、農作業・伝統芸能・祭・剣道などでのかぶり物、ヘルメットの裏地、鉢巻、目隠し、汗ぬぐいなどとして、また昔からの慣習として商店などの贈答品やイベントの際の記念品としても配られています。

そして現在は、従来のままの手作業による伝統芸と粋な柄が見直されて柄にもモダンなデザインが加わり、使い方も色々な用途へと広がりを見せており、幅広く発展しているようです。

手拭の利点

乾きやすい…薄いので、濡れてもさっとハンガーに掛けておけばすぐに乾き、雑菌が繫殖せず衛生的です。タオルに比べて速乾性、吸収性に優れている特徴があります。なお、端を縫ってしまうと縫い部分に水分がたまり乾きが遅くなるので、乾きを早くするという理由で“切りっぱなし”にしているとか。
丈夫で長持ち…綿100%の手拭は、かなり丈夫で長持ちしますし(小さい頃の面手拭もまだ現役です)、使うほどに柔らかくなります。
かさばらない…広げるとフェイスタオルと同じ位のサイズ(約90~100cm)なのに畳むとコンパクト、なので旅行のお供に、アウトドア・スポーツシーンにもおすすめです。
カットできる…用途に応じて使い易いサイズにカットできます。半分にカットして、ミニおしぼりやお弁当を包むのにも便利です。なお、端が切りっぱなしになっているので最初はほつれた糸が出てきますが、はさみで余分な糸を切ってしまえば次第にほつれは治まり、フリンジ状に落ち着いてきます。

手拭
和鏡台
ケヤキ一面鏡の和鏡台。抽斗(ひきだし)と扉の奥には隠し棚が付います。鏡掛(鏡台や姿見に掛ける布)の招き猫手ぬぐいは、浅草の手染め手ぬぐい老舗“ふじ屋”で買ったもの。

手拭を楽しむ

手を拭うだけでなく、たくさんの柄が揃う手ぬぐいは生活の様々なシーンで活躍してくれます。
お気に入りの柄だったらタペストリーとして飾ったり、姿見カバーやPCなどの埃よけに、箸置きやナプキン・ランチョンマットに、キッチンや洗面所の手拭き用に、収納かごの目隠しとして、また贈り物を包んでも粋な味わいですし、内祝いやお見舞い・引越しのごあいさつ・開店祝いなど掛け紙をして使用すると引き立ちます。
また最近は、マスク(実は無くなったら作ろうしていた)やエコバッグなどを作るのも流行っているとか。
様々に活躍してくれた手ぬぐいは最後に、はたきや雑巾などの掃除道具として活用でき、古タオルより使い勝手良く便利だと感じます。

オシャレな柄の手拭を丁寧に使うのもよいですが、気軽に毎日ガシガシ使い倒すのが本来の“手拭”ではないかと。歴史がある日本独特の手拭、見直してみる価値があると思います。

出典:手拭/コトバンク
出典:手拭/Wikipedia

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