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世界を凝縮して表現した「BONSAI」の盆景が面白い

世界を凝縮して表現した「BONSAI」の盆景が面白い

盆栽(ぼんさい)とは、樹木(主として大きな木)を小さな植木鉢に植えて適当な管理によって、その植物の自然の姿を壊さないままミニチュア化して育てる園芸。日本で発達した伝統文化の一つで、大自然の趣を再現する一種の芸術品です。

歴史は古く、平安初期に中国から「盆景(ぼんけい/盆栽に石などを配置して風景を小さな鉢の上に再現したもの)」として伝えられ、鎌倉時代には箱庭を発展させ、盆栽の技術が既に確立されていたようです。
江戸時代に入ると、貴族階級だけでなく武家階級や庶民の間でも様々な芸術が盛んになり、園芸技術も発達し盆栽は大いに流行りました。
なお、盆栽のルーツをたどると紀元前4000年のエジプトにたどり着くとか。

日本に現存する最古の盆栽は、徳川三代将軍家光の時代の樹齢約600年くらいと思われる五葉松の盆栽です。家光は無類の花好きだったらしく、吹上御苑にたくさんの盆栽を飾って楽しんでいたといわれてます。

そんな江戸時代の市井の人々が園芸を好んだ様子は、浮世絵にも多く見られます。

「江都(こうと/江戸の異名・雅称)花十景 染井」鳥居清長 画
「江都(こうと/江戸の異名・雅称)花十景 染井」盆栽を選んでいる2人の女性。鳥居清長 画(1752-1815年)出典:大英博物館

その中でも、おそらく盆栽を趣味としたであろう木村唐船という人物が出版した本「東海道五十三駅鉢山図会(絵)」が面白いです。(下記画像)
これは、東海道五十三次の宿場風景を盆景で表現し、浮世絵師・歌川芳重(歌川国芳の門人)が描き写した挿絵と、盆景を作る際の注意事項などが掲載された盆栽マニュアル的な本です。

「東海道五十三駅鉢山図会」木村唐船 作・歌川芳重 画
「東海道五十三駅鉢山図会」木村唐船 作・歌川芳重 画(1848年)、「日本橋」出典:メトロポリタン美術館
「東海道五十三駅鉢山図会」木村唐船 作・歌川芳重 画
「品川」、「川崎」

ちょっと注目されるのは、盆景デザインの一部に、歌川広重の「東海道五拾三次之内」の図柄が模倣されているということです。そのうちの「蒲原」は、雪に埋もれた蒲原宿と雪を踏みしめて歩みを進める3人の人物、広重の「蒲原 夜之雪」がアイデアの元となっているようです。盆栽の世界にまで広重が影響を与えてた様子がうかがえます。

「東海道五十三駅鉢山図会」木村唐船 作・歌川芳重 画
「神奈川」、「蒲原」
「東海道五十三駅鉢山図会」木村唐船 作・歌川芳重 画
「京三条 大橋」、「大内」

明治維新以降、政府の要人の間でも盆栽を愛好する人も多く、伊藤博文や大熊重信らは自身の邸内に栽培場を設けて、来訪者や会合の場に盆栽を飾っていたといわれています。

明治時代の女性が盆栽や鉢植えを買い求めている
明治時代の女性が盆栽や鉢植えを買い求めている様子。盆栽を外国人に伝えた最初期のものかもしれません。(1886年/明治19年)出典:Flickr

日本で古来より愛されている「盆栽」ですが、国際語でもある「BONSAI」は、現在ではヨーロッパを中心に海外でも人気があります。その好評を世界的に定着させたのは、第二次世界大戦後日本に駐留した各国の将兵や、1964年の東京オリンピックと1970年の大阪万博で盆栽展が開かれたことが盆栽文化を外国に広めた契機となったそうです。

しかし、日本では1980年代ぐらいまで年寄り臭い趣味とされたこともありました。これは1960年頃に流行したからというのが理由ですが、それから数十年経ち当時の若者もお年寄りに、その結果「盆栽といえばお年寄りの趣味」というイメージになった、とか。
確かに、育成には水やりなどの手間や数年がかりの長い時間が必要なため時間的余裕のある熟年層が多い、という理由もあるようです。

「新板手遊瀬戸物箱庭尽」歌川貞房 画
「新板手遊瀬戸物箱庭尽」歌川貞房 画(1800年代)盆景や染付鉢が色鮮やかに細かく描き分けられたおもちゃ絵。出典:Flickr

とはいえ、日本人はミニチュアが好きではないかと感じます。フィギュアやプラモデル、ジオラマなどの技術力は世界一だとか。極小に向かう嗜好は日本人独特の遊び心なのかもしれません。
世界を凝縮して表現し、そこに新たな小世界を見いだす、たとえ小さい木であっても、懇切に世話をすることで大きい木に劣らないような立派な樹を作り出し、生きた植物なので“完成”というものがなく、常に変化することに喜びや楽しみを見出す、というところが魅力なのでしょう。
大きくなるはずの木を無理やり矮小化して育てるのは不自然と言ってしまえばそれまでですが、大自然を掌中に収めるというコンセプトでもって作られた数々の秀麗な盆栽は、園芸ファンでなくとも思わず見惚れてしまいます。

最近では、10cmくらいから指に乗るくらいのミニ盆栽・プチ盆栽など人気なのだとか。ミニ盆栽だったら初心者でも始めやすいようです。
今では、海外や若い人の間でも愛好家が増加し、盆栽も盆景も進化し続けています。

出典:盆栽/コトバンク
出典:盆栽/Wikipedia
出典:盆景

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