不況に流行する柄といわれている「水玉模様」
「縞模様」や格子文様の「市松模様」などと共に、時代や流行にあまり左右されず好まれ親しまれてきた普遍的な模様の「水玉模様」とは、小さな円形を一面に散らした模様、小円形またはこれに近い形を規則的・不規則的に配列した柄で、ドット柄とも呼ばれています。
基本は、朱や藍または紫などの濃かったり暗めの色の地に、水滴のような形の円の配置が本来の「水玉模様」のスタイルです。これと反対の白の明るい色の地に濃い目の色の円を散らしたものは“逆玉”と呼びます。
水玉の大きさは様々で、ミリ単位から十数センチまであり、真ん丸ではないアーモンド形だったり、水玉同士の間隔を変えたり、大きさの違う玉を複数レイアウトしたり、一列に整然と並べたり、その逆だったりなど図案には多くの種類があります。代表的な水玉模様をあげると、1~2mm位の針の先で穴をあけたような無地感覚のドット柄のピンドット、直径5~10mmと最も標準的な大きさの水玉柄(中水玉)のポルカドット、硬貨(コイン・米国の25セント硬貨の直径2.3mmが基準とされてます)を並べたような大きい玉柄のコインドット、不規則な大きさの水玉が混ざっているシャワードット、などがあります。
水玉が歴史に初めて登場したのは紀元前2000年のアッシリアや古代ギリシアで、日本では安土桃山時代に交易で入ってきたらしいと言われていますが…
人類が最初に覚えた造形は、絵を描くことより以前に、丸や渦巻き、山形など単純な形を繰り返し並べた模様の発生だといわれています。これが土器や織物を美しく飾りたいという装飾願望の起源なのです。この同じ幾何学的な形が繰り返し並ぶと、なぜが運動感覚に似た抑揚のリズムの美が生じてきます。世界各地の遺跡から発掘される石器土器などから見られる建築装飾のもっとも古い時代の意匠は、共通して花や動物などの具象の形ではなく、ほとんどは丸や渦、三角・四角形などの原始パターンの単純な幾何学的形体なのです。
出典:ハンディクラフトのデザイン学 三井秀樹 著(日本ヴォーグ社)
エジプトやアッシリア、インダス、中国文明に植物や動物の具象の紋様が登場するのは、それから何世紀も経た新しい時代になってからなのです。
とあるように、水玉模様はきっと遥か昔から既に原始美術として出現していて、縞模様や格子文様などと共に、時代や民族を超えて描かれた「エターナル・グローバルパターン(普遍的な柄)」だったのでしょう。色々な模様や様式はその時代のその時に流行った文様デザインだったのかもしれません。
ちなみに、シュメールで都市文明が開花したウルク期(紀元前4000年~紀元前3100年頃)には、コーン・モザイク(円錐形の釘状の彩色土器や石を寄せあわせ埋め込んた絵や模様)による装飾が神殿などの建築物に施され、実は水玉というのは登場しています。左の画像は17世紀モロッコの古都メクネスの宮殿のモザイクですが、左右対称や連続性で永遠に広がっていく様がうかがえます。
また、右の画像は、日本密教独自の流儀で構成された大日如来を中心に多くの尊像を一定の秩序のもとに配置してある金剛界曼荼羅(平安時代806年)ですが、規則正しい円で構成された幾何学模様です。
表装では安土桃山期に古田織部が長谷川等伯に円模様の襖を作らせていたといった伝承もあります。
現存している水玉資料として出てくる伊達政宗所用の「水玉文様陣羽織」(仙台市博物館、収蔵)は、江戸前期から中期のもので、紺羽織に羅紗(ラシャ)で色とりどりの水玉をちらし金糸で伊達家の家紋(竹雀紋)が縫い取りしてある、たいへん美しい羽織です。しかし伊達家の宝物目録には「紫地羅背板五色乱星」の名で記されており、水玉ではなく星となっているようです。
江戸時代からある豆絞り(まめしぼり・豆粒のよう小さい丸を染め出した布。絞り染め)の手ぬぐい、プリントによる豆絞りより、絞り染めは豆の一粒一粒が違って味があります。丈夫で健康の“まめ”と“豆”を掛けて無病息災の思いを込めた紋様です。
大小霰(だいしょうあられ)文様の着物柄、雪の文様は五穀の精として、その年が豊作になる吉祥の象徴だと考えられてきました。安土桃山時代の小袖や能装束でも見られます。
雪輪の中に疋田(ひった)絞りの水玉状模様を配している柄を織り込んだ着物柄、雪輪はその名の通り雪が輪っか状に表現された吉祥を表す文様の一つです。
大正時代の水玉文赤縁吹きガラスなつめ形氷グラス、水玉をあぶり出しの技法により現されたモダンな手吹きの氷コップです。
1970年代に製造された有田焼ルリ水玉の昭和レトロな食器、昔は公民館など色々な所で水玉の器が使われていました。水玉模様の凹の部分は職人さんが手作業で削るのでとても手間のかかっている器だとか。
日本には、他にも点や丸を使った文様が沢山ありますが、一つずつ特徴のついた名前がある場合のほうが多く、単に水玉と呼ばれるものはあまりありません。
上記以外で水玉模様に近いものは、斜め45度に小さな点々が規則正しく配列されてる“礼を尽くす”という意味を持つ文様の「行儀小紋」、細かい点で円弧を重ねた様子が鮫の肌に似た模様で魔除けや厄除けの意味が込められている「鮫小紋」など。
なお、戦国期は「円」を「和(人の輪・円満)」「円(完全なるもの)」や信仰上の「日輪・月・星・雪」とするイメージだったようです。
江戸時代の寛政期(1789~1801年)の書物に「水玉の内掛け」といった表記が散見されますので、この時代には庶民の間で「円(丸)=水玉」の文様として認識されていたかもしれません。
水玉模様のように(縞模様も)、一方向や縦・横の二方向に同じ紋様が並ぶと、不思議とリズム感を奏でる音の流れのように見る人に何らかの視覚的な快感を生むようです。
心理学的には、円い形は心も和んできて安心感を与える形らしく、水玉も同じで温和な印象を与えるそうです。だからか、温和な人は丸っぽいのを好む傾向だとか。
縞模様の詳しい記事はこちら→「縞模様」のヨコシマな歴史の不思議!
流行に関係なく取り入れられる柄ではありますが、1929年(昭和4年)に起こった世界大恐慌の次の年には水玉模様が大流行し、不況に流行する柄としても注目されているということです。
水玉模様のファッションを取り入れることにより、表現することが難しい感情や気持ちを和らげようとしたのかもしれません。おそらく水玉は、生命に訴えかける、パワーが秘められた柄なのかもしれませんね。余談ですが、人物を特定し表現するためには、ドットは最低150個必要だそうです。これは点描で超細密な人物画を描く巨匠、チャック・クロースの言葉だとか。
ちなみに、8月8日は“8と8”で“○”が四つで水玉模様(ドット)の日だとか。そして、これから水玉模様(カルピス以外)が流行らないことを祈るばかりです。
出典:水玉
出典:「模様」の意味と種類・柄の例
出典:モザイク
出典:仙台市博物館
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