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日本人にしか涼しさを感じない「風鈴」

日本人にしか涼しさを感じない「風鈴」

チリリ~ン♪という音がどこからか風に乗って聞こえてくると、なんだか涼しい気分になれます。
日本の夏の風物詩といえば、“夏の音”を奏でる「風鈴」、今ではエアコンが普及し自宅に風鈴を吊るしているという人はあまり見かけないようですが、かつては風鈴が民家の軒先や窓際に吊るされ、夏の暑さを風鈴の音が和らげて癒してくれていました。

風鈴の歴史

風鈴の先祖といわれる、お寺の軒先に吊されている「風鐸(ふうたく)」、仏教建築文化とともに日本にもたらされました。

風鐸

もとは竹林の東西南北に吊り下げて置き、音の鳴り方によって物事の吉兆を占うための道具で、「占風鐸(せんぷうたく)」というもの。これが日本に入って来て、寺の堂の軒の四方に「風鐸」が吊り下げられるようになります。これらは青銅でできており、強い風が吹くとカランカランというやや鈍い音がします。

強い風は流行病や悪い神をも運んでくると考えられていて邪気除けの意味で付けられており、この音が聞こえる範囲は聖域になり災いが起こらないと信じられていました。

この重厚感のある風鐸が、現在のような小ぶりの風鈴へと変化したのか、いつから夏の風物詩になったのか、よく分かっていません。
風鈴(この時代は“ふうれい”)という言葉を初めて使ったのは、鎌倉末期の浄土宗の開祖・法然上人とされています。現在では同じ漢字を当てて「ふうりん」と呼んでいます。
平安時代後期には、貴族の屋敷でも魔除けとして風鐸を吊るしていたようで、いつしか疫病が流行りやすい夏の暑気払いの道具として風鈴が広まっていき、文献によると室町時代には大衆化していたようです。
ちなみに風鈴の色は、魔除けを意味する朱色だったのですが、いつからか涼しさをイメージさせる青色に変わっていきました。

美人風鈴
「美人風鈴」栄松斎長喜 画(江戸時代18世紀)出典:東京国立博物館

江戸時代に入ると、無色透明のガラス製法がオランダ経由で日本に伝わり、現在のようなガラス製の風鈴が登場するのは江戸中期の1720年~30年頃。長崎のビードロ(ガラス)職人が見世物として大阪・京都・江戸と興行して回り知られるようになりました。しかし、当時はガラス原料が大変高価(現代に換算すると200万~300万円ぐらい)だったそうで、大名や豪商だけしか楽しめませんでした。

1736~41年(元文年間)頃、江戸の町には屋台を担いで売り歩くスタイルで、荷台に風鈴をつるし音で来訪を告げた“夜鳴き蕎麦”の一種「風鈴蕎麦」と呼ばれる屋台そばが登場しました。

江戸後期の風鈴蕎麦

“かけそば”のみを現金売りしていた「夜鷹そば(由来は、街娼が好んで買ったため付いた)」と差別化し、上等な蕎麦(二八そば)とネタを売る夜食用そば屋台(市松模様が付くのが特徴)として風鈴(一つか二つ)を吊るしたそうです。京阪でも風鈴蕎麦が1772~80年(安永年間)頃に現れたとされますが、うどんも商ったので「夜鳴きうどん」と呼ばれました。

この風鈴蕎麦は、値段意外はほとんどスタイルを変えずに明治以降まで存続してそうです。
江戸後期の「風鈴蕎麦」(深川江戸資料館より)出典:Wikipedia

風鈴売り

1830~40年(天保年間)頃になると、ビードロ製の吹きガラスで作られた風鈴が江戸で作られるようになり、流行を見せます。大正時代には岩手県名産である南部鉄器の産地でも鉄製の風鈴を作るようになり、明治時代には市中を売り歩く風鈴売りも登場したようです。なお、江戸風鈴を安く購入できて庶民の間でも流行りだしたのは明治20年頃からだとか。

風鈴の効果

風鈴が風に揺れ鳴る音を聞くと心なしか涼しくなったという経験は、気のせいではなく、本当に体の表面の温度が2~3℃下がることが立証されています。風鈴の音により風が吹いているとイメージをするため“涼しい”と認識し脳が錯覚を起こし末梢神経に命令を出すからだそうです。ただしこれは日本人に限ったことで、風鈴の音と涼しさが結びつかない外国人には、この現象は起こらないとか。

“1/fゆらぎ”とは、規則的なものと不規則なものが調和した状態、人間がこの1/fゆらぎ音を聞くと、脳内にα波が誘発されリラックスできると言われています。実際、風鈴の音から周波数の異なる二つの音や、波形が滑らかでなくギザギザになっていて複数の微妙に異なる音が、響きあったり打ち消しあったりとの実験結果が出ているようです。
風鈴の音は、短冊が風を受けて不規則なリズムで鳴り、この変化する不規則な音が重なり合い揺らいで、心地よいと感じる“1/fゆらぎ”になるのだそうです。

その昔、厄除けとして用いられていた風鈴。音には浄化作用があり邪気を払う力があるそうです。音が鳴る物は風の入り口にレイアウトするのが風水では良いらしく窓辺や家の東側に飾ると開運効果があるそうです。

色々な風鈴
左上から、江戸風鈴、南部風鈴、小田原風鈴、明珍火箸風鈴、津軽びいどろ風鈴、諏訪ガラス風鈴

ガラス製の江戸風鈴は、300年以上続く宙吹き(ちゅうぶき)という技法によって作られ、優しい音色が響くように風鈴の開口部の縁はあえてギザギザに、絵付けは内側から施され、“チリン、チリン”と軽やかに鳴る特徴があります。
鉄製の南部風鈴は、良質な砂鉄を含んだ密度の高い鋳物(いもの)から作られている岩手県の有名な工芸品「南部鉄器」で出来ていて、“リーン”と高く澄んだ音が響き渡るのが特徴です。
砂張(さはり/銅とスズの合金)製の小田原風鈴は、室町時代から続く神奈川県・小田原の伝統工芸である小田原鋳物でできた風鈴で、余韻が普通のものより2倍も長いのが特徴です。黒澤明監督の「赤ひげ」で浅草寺ほおずき市のシーンで使われたのが有名です。
金属製の火箸4本が釣り下がっている明珍(みょうちん)火箸風鈴は、兵庫県姫路市で平安時代より続く由緒ある甲冑師(かっちゅうし/鎧や兜を作る職人)の明珍家が、鍛冶の技術力を活かして作った風鈴で、高く澄んだ音色と深い余韻を残すのが特徴です。アメリカ人歌手スティービー・ワンダーが“東洋の神秘の音色”と絶賛したことでも有名です。
四季の情景を映し込んだ色彩の鮮やかなガラス製の津軽びいどろ風鈴、涼しげなすりガラスに繊細な模様が美しい諏訪ガラス風鈴

出典:風鈴
出典:風鈴蕎麦

最後に

江戸時代に比べて現代の夏の平均気温は2度ほど高いと言われており、最近の夏はまさに酷暑というにふさわしい状態。なので、エアコンで窓を開けることなく涼しく快適な室内生活をおくるようになり、弱い風でも涼感を楽しめる風鈴の音は一般住宅でも徐々に聴こえなくなってしまいました。
また、マンションや住宅が密集している地域では、風鈴の音が“騒音”と捉えられてしまうケースも少なくないとのこと。

とはいえ、最初は魔除けとして取り入れられ、夏の風物詩として広く親しまれるようになった風鈴、無くしたくない情緒であるのも事実。
そこで最近ではインテリアに特化した卓上型の風鈴が登場したり、エアコンの送風口につけたり、ドアフォン代わりに玄関に風鈴をつけたり、など風鈴との新しい楽しみ方が生まれています。室内でも風鈴を上手に取り入れて涼やかな夏を味わってみるのもよいかもしれません。

“音で涼をとる”は日本の夏特有であり、風を音色に変え、その風情を楽しむ風鈴は“日本の音の文化を象徴するもの”と感じます。
現在でも風鈴の音は、夏の暑苦しさを和らげるとともに、夏という季節の懐かしさ思い出させてくれるような気がします。今年もまた、虫の音が聴こえるまで濡れ縁に南部風鈴を取り付けようと思います。
濡れ縁とは→「縁側」がなくなったせいでコミュニケーションが失われた⁈

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