昭和レトロな玩具・家電・雑誌・家具などなどをご紹介

闇の世界と光の世界を行き交う死と再生を繰り返す不死鳥「火の鳥」

闇の世界と光の世界を行き交う死と再生を繰り返す不死鳥「火の鳥」

「火の鳥」というと、手塚治虫氏の言わずと知れた名作、宇宙の始まりから終焉まで不死の存在である火の鳥を通して描いた漫画作品ですが、炎をまとった鳥という容姿から、西洋のフェニックスや東洋の鳳凰・朱雀と同一視されることが多いです。
ということで、非常にメッセージ性に富んでいる超大作「火の鳥」について色々と調べてみました。

フェニックスは再生する

フェニックスとは、RPG「ファイナルファンタジー」シリーズに登場する召喚獣(笑。でもありますが、フェニックスの最も古い記述はエジプト神話(紀元前3000年~紀元前2000年頃)にあり、フェニックスは太陽神ラーの魂と言われ、冥界の神々の案内役であり、その名をベンヌ鳥という伝説上の霊鳥です。名前の由来は古典ギリシア語のポイニクスですが、ギリシア神話にはほとんど登場しません。
ヘリオポリス(古代エジプトの都市)の砂漠に住み、500年以上生きますが寿命が尽きる頃に自ら火中に入って焼かれ、その灰の中から幼鳥の姿となって再生するといわれ、永遠の時を生きるため不死鳥とも呼ばれています。鷲(わし)と同じ大きさで羽根は燃えるような緋色(やや黄色みのある鮮やかな赤)と金色、美しい声で鳴く特徴があるとか。
ヨーロッパにおいてはソロモン72柱(古代イスラエル王・ソロモンが72体の悪魔を使役していた)の悪魔の1柱とされ、フェニックスの別名フェネクスと呼ばれています。
出典:フェニックス

手塚治虫の「火の鳥」
出典:火の鳥のラスト

鳳凰は名君の前に出現

鳳凰(ほうおう)とは、古代中国で、麒麟(きりん)・亀・竜とともに四瑞(四霊、四体の幸運を呼ぶ獣)として尊ばれた想像上の霊鳥。鳳が雄、凰が雌、鳳皇とも書き、古くは「朋」とも呼ばれました。殷(いん)代(紀元前17世紀頃~紀元前1046年)の遺跡の甲骨文字に「鳳」の字みられ、風の神として祭祀の対象となっていることから、これが鳳凰の原型となっているようです。
梧桐(アオギリ)という木にのみ巣を作り、竹の実と甘露のみを食べたと伝えられ、徳の高い君子が天子の位につくと出現する平安を表すめでたい禽鳥(きんちょう)と考えられました。
容姿については諸説ありますが、中国最古の地理書「山海経(せんがいきょう)」によると外形はニワトリのようで、羽は孔雀のような五色に彩られ、体の各部にはそれぞれ徳(首)、義(翼)、礼(背)、仁(胸)、信(腹)の字が浮かび出ていたという。

「鳳凰に乗って空を飛ぶ女」鈴木春信 画
「鳳凰に乗って空を飛ぶ女」鈴木春信 画(1765年)出典:メトロポリタン美術館

風から朱雀の火へ

鳳凰は本来“風”をつかさどる瑞獣ですが、“万物は木・火・土・金・水の5種類の元素から成る”という五行説が現れ、春秋戦国時代(紀元前770年~紀元前221年)に古くから存在した陰陽説と一体で扱われるようになり、四方を司る神獣(青龍[東]・白虎[西]・朱雀[南]・玄武[北])のうち南方を守護する「朱雀」と同一視され、“火”の属性を持つと見られるようになりました。このため、鳳凰がモチーフにされる際に火にからめて描写されることが多いようです。

「鳳凰舟での美人合奏図」鳥文斎栄之 画
「鳳凰舟での美人合奏図」鳥文斎栄之 画(1796年)船首に鳳凰で飾りたてた船の上、雅楽を合奏する場面を描いた作品の1枚。出典:ボストン美術館

鳳凰は古墳時代に伝来

日本へは古墳時代末期に中国六朝(りくちょう/222~589年)より鳳凰文(紋)が伝えらたようです。最古の鳳凰文は、古墳時代(仏教が伝来した頃)の双鳳文杏葉(ぎょうよう)が奈良県から出土しています。参照:奈良国立博物館
鳳凰は瑞祥文様(瑞祥=めでたいしるし)として多くの美術品や建築物にその意匠が装飾に使用されています。桐の家具に鳳凰を彫刻するものが流行したと『枕草子』にあり、また平等院鳳凰堂(宇治市)や鹿苑寺金閣(金閣寺、京都市)の屋根にあるものが有名です。
現代では通貨や郵便ステーショナリー、各種団体の意匠にも取り入れ、2004年発行の現行一万円札裏面に平等院鳳凰像も描かれています。
出典:鳳凰

東町祭屋台「鳳凰図」葛飾北斎 画
東町祭屋台「鳳凰図」葛飾北斎 画(1844年頃)「龍図」と一対で描かれた屋台の天井画。80歳を過ぎた北斎の集大成ともいわれる名品。出典:「鳳凰」図

火の鳥とは

鳳凰は、欧米では東洋のフェニックスともみなされ混同されているようですが、本来別系統のものであり特徴も異なります。
しかし、フェニックスと鳳凰の中間的な性質をもつペルシア神話(イラン神話)の霊鳥「フマ」と、ベンヌ~フマ~鳳凰は死と再生の象徴(政治的には新王朝の到来の象徴)として日の出を告げる鳥の神格化で、神話学的に同一起源である可能性が指摘されてはいます。

ちなみに、火の鳥とは、ロシアの昔からある民話・伝承に登場する光に包まれた輝く鳥で、ストラヴィンスキーのバレエの和訳をしたときに誕生しました。ただし、体が火に包まれた描写はないとか。

ということで、漫画「火の鳥」の登場人物“火の鳥”は鳳凰およびフェニックスをモデルにしていて、その執筆のきっかけを与えたのはストラビンスキーのバレエ“火の鳥”だったようです。

手塚治虫の「火の鳥」

不死の“火の鳥”を軸に人間の愛と生・死、永遠の命とは何かを過去と未来からの壮大なスケールとテーマは滅びと再生の「輪廻」で描く、手塚治虫氏が漫画家として活動を始めた初期の頃から晩年の1988年まで描き続けられたライフワーク的作品。
最初に連載されたのが1954年(昭和29年)の黎明編、全部で12編からなり、それぞれの世界は“同じ世界”の“違う時代”の出来事です。

順番に並べると、1黎明編(卑弥呼の時代・3世紀)、2未来編(西暦3407年)、3ヤマト編(4世紀)、4宇宙編(西暦2577年)、5鳳凰編(奈良時代)、6復活編(西暦2482年)、7羽衣編(10世紀)、8望郷編(宇宙時代)、9乱世編(1172年・平安末期)、10生命編(西暦2155年)、11異形編(室町時代)、12太陽編(7世紀の過去と21世紀の近未来が交互に行き来している)となり、奇数番の編は過去を語り、偶数番の編は未来の物語だという事が分か、番号が大きくなるにつれて“現在”に近づいていることが分かります。

一番古い時代を描いたのが1黎明編、次は一番遠い未来の2未来編、ラストは“未来”のさらに遠い未来には“過去”だったはずの最初の黎明編の冒頭に繋がるというもので、つまり1→3→5→7→9→11→12→10→8→6→4→2→そして1へ繋がるという時系列になっていて、ここで既に物語は一つの巨大な輪廻であることを示しています。
しかし、それぞれの編は基本的に独立した内容となっているため、どれを選んでも作品単品として楽しむことができます。

手塚治虫の「火の鳥」
火の鳥全12巻完結(ハードカバー版)コミック(1986年)

そして、火の鳥の最終巻である「現在の物語」は、執筆されなかったので未完の作品と言われています。だけど謎は謎のままの方が作品に神秘性を与えている気もするし、未完であることが完成形のような気がします。また久々に火の鳥を読み返してみようと思いました。
漫画を読んでいるのにまるで小説を読んでいるかのような、何度繰り返し読んでも新たな発見がある「火の鳥」、ぜひご一読ください。

ベンヌ鳥は、闇の世界と光の世界を行き交う死と再生を繰り返す不死鳥、火で焼かれるのは俗世間的なものから聖なる世界への旅立ちでもあり、浄化の意味を持っています。
現在の物語は、浄化へ向かうのでしょうか…

出典:火の鳥 (漫画)
出典:火の鳥|手塚治虫
出典:火の鳥/ピクシブ百科事典

テキストのコピーはできません。