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「上履き」は単なるモノではなかった

「上履き」は単なるモノではなかった

そういえば、昔、下駄箱でいたずらを企んで、上履きを左右反対にしてみたり、折り曲げたり、一段上に置いてみたり…。
そんな、小さなコミュニケーションを毎日を楽しくしていた上履きという記憶。
小学校に登校すると、まず下駄箱で外履きから上履きに履き替えました。
上履きは甲の部分にゴムバンドを通した白い布製ズック、軽くて丈夫で体育館の床でも滑りにくかった。ゴムバンドには母親がマジックで書いてくれた自分の名前。みんな同じ靴を履いていたので、名前がないと区別できませんでした。

上履きの歴史

江戸時代の藩校や寺子屋は、寺院や民家などの日本家屋を利用して授業が行われていて、履物の履き替えという点では、玄関先で土足を脱いで裸足か足袋(たび)だったようです。1872年(明治5年)に学制が発布され、近代的な学校制度が始まります。この頃はまだ校内で裸足または足袋・草履などを履いていたそうです。
それから、日常的に履き古した運動靴を上履きに使用するようになり、1950年代には前ゴムシューズ(甲の部分にゴムをはめ込んだタイプの靴)、1960年代にはバレエシューズタイプ(バンド付)の上履きが定着していきました。

上履きの月星靴ポスター
ムーンスターシューズのヴィンテージポスター出典:Flickr

おそらく、1958年(昭和33年)にバレエシューズタイプの上履きを発売した時のポスターだと思われます。
ムーンスターはもともと1873年(明治6年)に「つちやたび店」として創業。座敷足袋を作っていました。株式会社ムーンスターという社名になったのは2006年と結構最近です。それまでは、月星化成株式会社という名前でした。品質が信頼されていたので南極探検隊の特製防寒靴やコンバースやニューバランスのスニーカーも作っていたとか。

上履き製造メーカーの一つである(株)ムーンスターは、児童用の前ゴムシューズは外履き用として1927年(昭和2年)から製造が開始され、1958年(昭和33年)にバレエシューズタイプの上履きを発売、またアキレス(株)は1957年(昭和32年)から学童用シューズ(前ゴム布靴)を試作し、1968年(昭和43年)にバレエシューズの大量生産を開始しました。

つまり、戦後すぐの時期は、外履き用の学童靴として発売されていた前ゴムシューズタイプの履物が上履きとして流用されていて、1960年前後にバレエシューズタイプが上履き用として生産・販売されるようになり、それ以降、大量生産されるようになって普及したようです。

なお、ムーンスターの資料では、「上履き」の文字が初めて記載されたのは1957年(昭和32年)。そして、バレエシューズは、1950年代半ばに学生たちの間で紐付きの白いバレーシューズが流行していたトゥシューズにヒントを得て開発されたものだとか。

スクールカラー上履き

その後のムーンスターは、1964年(昭和39年)にアッパーの先端部とソール近くの外周に色を付けた「スクールカラー」を発売、これは学校別・学年別・男女別などで区別しやすいようにするためで、ヒット商品になりました。
現在販売されているムーンスターの上履きは全部で30タイプにも及び、学校のニーズをダイレクトに反映した商品構成になっているそうです。

1960年代のアニメパッケージの子ども用シューズ
1960年代のアニメパッケージの子ども用シューズ(上履きとは関係ないですが…汗)出典:Flickr

上履きの役割

上履きを用いること、または室内では靴を履かないことを「二足制」と言います。上履きの文化があるのは日本だけで、したがって学校の上履きも日本独特の文化だそうです。
学校教育現場では、上履きを単なるモノではなく、生活指導上の重要なモノとして活用していました。上履きが毎日使用するモノであることを利用して「はきものを揃える」という生活指導は「あいさつ」「早寝早起き朝ごはん」の指導の次に多いそうです。(『平成19年度 調査報告 教育課程の実施に伴う学校経営上の課題 各学校で特に効果のあった取組編』調べ)

はきものを揃えるという行為は日常の学校生活では些細なことですが、このことを生活指導の中で6年間積み重ねていくことによって、規律正しい生活と落ち着いた生活態度を身につけさせることを目指していて、生活指導の重要なツールとして活用されているようです。確かに武道においても靴を揃えて道場に入るのは徹底して小さい頃から当たり前に教え込まれます。学ぶ場へ入ることへの礼儀だと思います。
また、学校現場では服装の乱れが心の乱れであるとよく言われますが、上履きのかかとを踏んではいている児童生徒に対する生活指導はとくに重視される傾向にり、つまり、身につけるものとして個々の児童生徒の状態を判断するツールとしても利用されているようです。
このことからすれば、上履きは学校文化において単なるモノ以上の重要なツールとして機能していると言えるのではないでしょうか。

玄関で靴を脱ぐ理由などの記事はこちら→日本の「玄関」は秘密がいっぱいだった

学校の下駄箱

大人の上履き

軽くて滑りにくく脱ぎ履きしやすく、値段が安いから気軽に履ける、そんな上履きが、急に入院することになった患者やリハビリに励む人たちに受けているそうです。また最近では、授業参観やイベントなど、学校行事に参加する際に室内履き用にと使われているようです。

上履き

デザインもオシャレで豊富になり、老若男女を問わず幅広い層に買われている上履き、地味な商品ですが60年以上に渡り注目されていて、今なおひときわ重要なモノなのかもしれません。
そして震災後は再び上履きが見直されるケースも増えつつあるという。

出典:株式会社ムーンスター
出典:上履き
出典:140年間一歩ずつ。ムーンスター
出典:『モノと子どもの戦後史』天野正子著 吉川弘文館

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