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イカ墨、ハチ、お歯黒、インクやインク瓶の話

イカ墨、ハチ、お歯黒、インクやインク瓶の話

学生の頃は製図などを描くためインクやロットリング(こちらはカートリッジインク)をよく使いました。
インク瓶を机の上に置いて仕事をする風景など見ることはなくなりましたが、昔は小さなインク瓶の存在が大きかったのだとか。
ということで、筆記用インキのインク瓶について。

アンティークなインク瓶

インクとは、筆記用または印刷用の、色のついた液体。戦前までは「インキ」と言っていて、現在でも印刷関係では多く「インキ」というそうです。
このインキは、江戸中期にオランダ人が持ち込んだのが最初とされていて、オランダ語の発音が元だったと考えられます。
なお、どちらも英語の表記としては「ink」となり、読み方の微妙な違いでしかないそうです。

インク瓶の歴史はインクの歴史とほぼイコールなので、インクの歴史も少し。
最古のインクは紀元前4000年の終わり頃、エジプトで樹脂や膠(にかわ)に木炭や煤煙(ばいえん)を混ぜてつくったものと云われていて、煤煙と膠を練り合わせた墨がインクの最も古い原形であるとされています。
他地域の初期文明においても植物の実や種、鉱物から様々な色のインクが作り出されました。古代ローマ人は、煤やイカ墨から得られた黒色のインク、そのほか銀朱(硫化水銀)を使った赤インキ、ラブリカという赤土でつくったインキ、ミュレックスというホラ貝を陰干しにし、それをつぶしてつくった紫インキ、緑青と酢でつくった緑色インキなどがあったようです。

アンティークなインク瓶

ちなみに、中世ヨーロッパで広く用いられた、ペン先にインクをつけながら使う“つけペン”で「没食子インク(もっしょくしインク、iron gall ink)」と呼ばれるブルーブラックインクがあります。これは、タマバチ(昆虫、人を刺さない体長5mm以下の蜂)」が枝などに卵を産みつけることによってできる“虫こぶ”に含まれる没食子酸液(高濃度に凝縮されたタンニン)に硫黄鉄と植物の樹脂を加えて作ったものです。書いた時点では青いですが、時間が経つとインクに含まれる鉄の成分が酸化して黒くなり、耐久性や耐水性に優れていたことから公文書などにも積極的に用いられました。そして、現在も製造は行われており、“古典インク”と呼ばれ親しまれています。
このインクで有名な画家はレオナルド・ダ・ヴィンチ、ブルーブラックインクを用いて「5つのグロテスクな頭部」など数々の素描を残しています。

なお、東大寺正倉院にも中東原産のタマバチの虫こぶが収められていることが確認されており、当時の記録から、奈良時代にはすでに日本にも持ち込まれていたことがわかっています。
そして余談ですが、日本でも手に入る違う虫が作る“虫こぶ”と鉄成分を含んだ水を混ぜることで没食子インクと同様のものを、奈良時代に伝わり平安時代から貴族階級の間に広まった“お歯黒(歯を黒く着色する風習)”に利用されていたという。

日本へは、江戸時代から一部使用されていたようですが、輸入が始まったのは1872年(明治5年)にフランスから入ってきたのが最初で、国産のインクは1878年(明治11年)に安井敬七郎が日本初の筆記用インキを製造、丸屋商社(現・丸善)から発売をしました。

日本の印刷の起源については、江戸時代末期の1848(嘉永元)年。日本の活版印刷の祖と呼ばれる本木昌造(もとき しょうぞう)が、オランダ船が積んできた西洋の活版機材をもとに、「活字版摺立所」が設立したのが始まりとされています。

出典:インキ
出典:インクの歴史
出典:中世のインクと刺さないハチの意外な関係

アンティークなインク瓶
1867年Igloo Ink Well(イグルー[=ドーム型エスキモーの家]型のインク瓶)、1910-1920年頃円錐形インク瓶CARTER’S GREEN HOUSEHOLD INK、1920年代ボート型(ペンを置くためのくぼみがついているもの)インク瓶、1930年代の真鍮の蓋付き丸形インク瓶

19世紀末以降、洋紙の輸入や洋式帳簿の普及なので、ペンや万年筆が流行していきました。当然インクも必需品として、丸善インキを筆頭に、オリンピアインキ、月印インキ、サムライインキなど、20種類以上のインキが発売されました。
国産インキ発売以前より、ウォーターマンのインキ、アイデルインキなどが、横浜や神戸の外国商館を通じて市販されており、世の中は和紙に墨で書いていた時代から洋紙にペンで書く時代へ移行していきました。
2オンス(約59ml)入りのインキ瓶を、一人が平均3か月以内で消費していたそうで、よく文字を書いていたことがわかります。
そのような背景から、インキや瓶やラベルには、現在以上に様々な工夫や新しいデザインを取り入れていたようです。特に瓶のデザインの種類が多く、バナナや人間の形をしたもの、円錐形や角錐形のもの、靴型のもの、また底面隆起式のインキが少量ずつ口の方へ流れ出すものや、少量が口の部分に溜まるもの、倒れてもこぼれないことや最後まで使い切れるための工夫が凝らされたインク瓶が作られ、机の上でのインキ瓶の小さな存在がいかに大きかったかを知ることができます。

インク瓶
モンブランの靴型インク瓶

アンティークなインク瓶は形が揃っていなかったり、ガラスの厚さのよって色なども変わり、不格好なものが少なくありません。しかし、そこにはその時代ならではの空気が封印されていて、ひとつひとつの個性があります。
形、サイズ、色…いろんな物があって、同じものが2つとないのも魅力、いろいろ集めてみたくなってしまうインク瓶です。
口が小さいので花止留めいらずで、お花もいけやすく、窓際に置くだけでも素敵なインテリア小物になりそうです。

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