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ちょっと前まで世界1位の「自販機」大国だった!?

ちょっと前まで世界1位の「自販機」大国だった!?

日本中だいたいどこでも外を歩いていると、様々な自動販売機を目にしますが、所狭しと並ぶ風景は日本独特なのだそうです。
海外では同じように外に置いておくと自販機ごと盗まれたり、壊されて中のお金や商品を盗られてしまうため設置できない場所が多いのだとか。
それだけ治安がいい国だからなのか、自販機普及台数は米国についで2位、ただし国土面積を勘案した普及率、設置密度、総売上において日本が世界1位の自販機大国のようです。

そういえば駅から2~3分と近い所に住んでいた小さい頃、自販機を設置していたことがあり、箱詰め缶コーヒーが物置にたくさんあったことを思い出しました。売上はどうだったか不明ですが、調べたら自販機を設置した場合のマージンは売上の15~20%程のようです。
ということで、自動販売機がいつからこんなに増えたのかなど、探ってみることにしました。

1970年代のトーストサンド・みそ汁・川鉄カレー自動販売機
1970年代のトーストサンド・みそ汁・川鉄カレー自動販売機。出典:Flickr

自動販売機の歴史は2000年以上前のエジプトまで遡り、紀元前215年頃アレクサンドリアの神殿に置かれた「聖水自動販売機」がルーツとされます。
この自販機は「ヘロンの公式(三辺の長さから三角形の面積を一瞬で求める公式)」で有名なヘロンの発明ともいわれ、硬貨を投入すると、その重みで中の受け皿が傾き、それが元に戻るまでの時間、蛇口から一定量の聖水が出るという仕組みでした。蛇足ですが、ヘロンは「自動ドア」についても書き記しています。

その後長い間、自動販売機が作られ(使われ)なかったようですが、この種のアイデアは17世紀に入ってイギリスで復活します。

1615年頃の嗅ぎタバコ販売機
1615年頃の嗅ぎタバコ販売機。出典:Flickr

1615年頃、イギリスの旅館経営者が考案した嗅ぎタバコ(タバコの葉を粉末状にして鼻孔に塗り、香りを嗅ぐ嗜好品)の販売機でした。これは、真鍮製の箱の上部の硬貨投入口から半ペンスコインを投入すると勢いで留め金が外れて蓋が開きタバコを取り出すことができるカラクリ仕掛けで、旅館やパブ(居酒屋)に置かれてたようです。この販売機は「正直箱(Honour box)」と呼ばれ、世界最古の自動販売機として現存しています。なお、前の人が蓋を閉め忘れると、後の人はタダで商品を手に入れられる仕様だったため、利用者の良心を期待して“正直箱”と呼ばれたとか。

1822年にはイギリスで本の自販機が存在し、1857年にはセミアン・デナムが切手と収入印紙の自動販売機を考案、特許をとった世界で初めての自販機となりました。

その後、この技術は広く欧米に伝わっていき、タバコや切手をはじめ、チューインガムなどの自動販売機が考案され、ゲーム性があるものやオマケ付きのものなど、沢山のアイデアが盛り込まれます。これらはスロットマシーンやピンボールといったゲーム機の始まりともいわれています。
1925年にはアメリカのウィリアム・ロウによって、異なる価格、複数の商品から一つを選んで販売できるタバコ自動販売機も作られ、これが近代的な自動販売機のルーツになったとされます。

1889-1910年頃、酒の自動販売機
1889-1910年頃(製作者不明)酒の自動販売機。出典:画像

木製の外観で、容器を置いて5銭硬貨を入れるとゼンマイ仕掛けで水道のような蛇口から一定量の酒が出る仕組みの、現存する日本最古の飲料用自動販売機です。1987年に岩手県で発見され、歴史民俗資料館に保存されています。

1904年(明治37年)自働郵便切手葉書売下機
1904年(明治37年)自働郵便切手葉書売下機。出典:Flickr

俵谷高七が製作した切手やハガキの自動販売機で、郵便ポストの役割も兼ねていました。偽硬貨を見分ける機能や「売切」表示と売切時の硬貨返却など、当時の欧米の機器に見られない先駆的なカラクリ技術を応用したものでした。

日本では、最初の自販機は1876年(明治9年)上野公園内に「自動体重測定器」が設置された記録があり、一回測定するのに2銭という料金で、当時きつねうどん一杯1銭だったので、なかなか高級なものだったようです。しかし製造者や設置期間などは不明だとか。

なので、1888年(明治21年)に指物師・俵谷高七が製作したタバコ自動販売機が最初とされています。ただ、第3回内国勧業博覧会に出展され好評を博したものの、実用化には至らなかったそうです。俵谷が考案したなかでもっとも有名な自動販売機は、1904年(明治37年)に製作した木製の「自働郵便切手葉書売下機」で、これは現在、東京・大手町の逓信総合博物館にレプリカが陳列されています。この切手やハガキの自動販売機は、当時戦争の影響で兵士に向けた遠方への手紙などが飛躍的に増えたため発明されたと言われています。
ちなみに、俵谷は日本で最初に赤色鉄製・円筒状の郵便ポストを作った人で、1901年(明治34年)に設置されました。

大正時代の飲料水自動販売機、菓子自動販売機
上:大正時代の飲料水自動販売機。左下:イチゴ水・バナナ水・リンゴ水・みかん水の飲料水自動販売機。右下:1931年(昭和6年)菓子自動販売機で省線(日本国有鉄道になる前の名称)11駅に設置。出典:Flickr

最初に広く普及した自販機は1924年(大正13年)に中山小一郎が製作した当時の人気キャラ「のんきな父さん」が描かれた袋入り菓子自動販売機で、全国の菓子店の店頭に置かれました。
1926年(昭和元年)には日本初の切符の自動販売機が東京駅・上野駅に設置されます(ただし販売していたのは入場券のみ)。
1931年(昭和6年)に登場したグリコのキャラメル自販機は、10銭硬貨を入れると20秒間の映画が上映され、終わると下から商品とお釣りの2銭が出くる「音声映写装置付きグリコ自動販売機」で、子どもたちの人気を集めたそうです。

1960年頃の噴水式飲料用自動販売機「オアシス」
1960年頃の噴水式飲料用自動販売機「オアシス」。出典:Flickr

上部に透明のドームがあり、その内部でジュース(オレンジが多い)が噴水のように吹き出しているのが見える昭和30年代に大流行した「噴水型ジュース自販機」は、10円硬貨を入れるとジュースが紙コップに出てくるので「10円ジュース」とも呼ばれました。なお、冷蔵装置が初めて導入された自販機だとか。

1962年(昭和37年)瓶入りコカ・コーラ半自動式販売機
1962年(昭和37年)瓶入りコカ・コーラ半自動式販売機。出典:デイリー新潮

コインを入れて左側の扉を開きボトルを引き抜き、自販機に備え付けられた栓抜きで栓を抜くというボトル用の自販機です。これは傾斜した収納棚を持ち、取り出し口へ転がるようにした日本で初めてのタイプで、現在の自販機につながる基礎となりました。この自販機は、全国に880台が設置されました。

1960年代、1970年代の自販機
1960年代のタバコ自販機。1970年代のボンカレーライス自販機。ガム自販機。ハンバーガー自販機。昭和時代に町の電器屋さん前によく置かれていた乾電池自販機。出典:Flickr、Wikipedia

戦中は自販機の製造は中断され、普及するのは1960年~70年のこと。1957年(昭和32年)ホシザキ電機から、日本初のジュース自動販売機を発表して一躍脚光を浴びました。10円硬貨を投入するとジュースが出てくるカップ式で、噴水型ジュース自販機と呼ばれ全国に1万台以上設置されました。
1962年には日本初の清涼飲料水自販機として瓶入りコカ・コーラの自販機が導入され、同年 新三菱重工が国内初のホット自動販売機を開発、販売されたのはカップ式コーヒー(ブラック、砂糖入、砂糖・ミルク入)とココアでした。1965年(昭和40年)富士電機が電子レンジ式のハンバーガー自動販売機(最盛期は80年代)を発売、同年、カプセル型ケースに景品を入れて販売するカプセルトイ(いわゆる“ガチャガチャ”)自動販売機が登場しました。

昭和40年代に急速に普及していきましたが、その要因として1967年(昭和42年)に100円・50円新硬貨が発行されたこと、また同年に国鉄(現・JR)が合理化の一環として近距離乗車券発行用自動販売機を導入し、これも大きな影響を与えたといわれています。加えて、1973年(昭和48年)には世界で初めて1台の自販機でホットとコールドを同時に作動できる画期的な冷温式自動販売機(最初に普及させたのはポッカコーヒー)が登場し、その勢いは加速、自動販売機は生活の端々にまで浸透し定着していきました。

余談ですが、災害発生時に商品を無償で提供する機能を備える「災害支援型自販機」が2003年にコカ・コーラボトラーズから登場、以後各飲料メーカーも設置したとか。

柴又ハイカラ横丁の店

普及台数から見ると、2000年(平成12年)がピークで約561万台、総売上金額は7兆1123億円を記録しています。
しかし最新の2020年では約404.6万台まで減少、どうやら飲料自販機の割合が56.4%と多く(日本自動販売システム機械工業会調べ)、2010年代からコンビニ各社が力を入れた「レジ横の淹れたてコーヒー」の普及や人口減少や景気の悪さ、またコロナ禍で在宅勤務やテレワークが進められた結果などなど、もう一つ、注文や決済もすべてアプリ上で行えIoTで繋がって売り上げがリアルタイムで分かる(食品だったらフードロス削減に役立つ)スマート自販機(スマートベンダー)も遅れ、自販機(おそらく従来型)の衰退に歯止めがかからないようです。
片や世界では、“非接触”という利点から、食品はもちろん生活用品、家電製品、さらにはコロナ検査キットなどの配布に利用するなど、スマート自販機の「自販機ビジネス」が大いに賑わっているもよう。

とはいえ、自動販売機は人手不足・人件費高騰の対応策として効果があり、すきま空間の有効利用や休日・24時間営業できる利点などあるわけで、飲料自販機が頭打ちなら現在1.7%のシェアしかない食品自販機に活路を見出せるような気がしますが、どうなのでしょう。いずれにしても、少子高齢化の進む日本において希少化する人間の替わりに作業を行う自販機がなくなることはないと思われます。
また最近では、ガソリンスタンドの“ちょっともったいない空間”に自動販売機6機分ほどの大きさの「超小型無人コンビニ」など設置して実証実験しているなど、様々な自販機を寄せ集めた超小型の無人決済コンビニが広がっていくのでしょうね。

出典:なぜこれを自販機に?昭和レトロな「謎の自販機」ベスト30
出典:「自動販売機の始まり」の歴史
出典:自動販売機
出典:自動販売機年表

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