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ガラス製容器とコルク栓から始まった「目薬」

ガラス製容器とコルク栓から始まった「目薬」

いつから目薬が手放せなくなったのか、と考えると、おそらくパソコンを使い始めてからのような気がします。現在はこれにスマホも加わり目を酷使していますが。
なので、かゆみ・充血・痛み・目やに・疲れなど、“とりあえずビール”状態の“とりあえず目薬”になってしまっています。
ということで、いつもお世話になっている目薬について調べてみました。

「精錡水・楽善堂三薬」小林永濯
「精錡水・楽善堂三薬」小林永濯 画(1877年)出典:千葉大学附属図書館・古医書コレクション

東京銀座二丁目に薬店を開業した岸田吟香が、店の代表的売薬として補養丸・鎮溜飲・穏通丸の三薬と看板商品である目薬「精錡水」を併せて宣伝した広告

日本にはもともと眼病患者が多く、古くは平安時代に水で溶いて使う固形の目薬があったようで、江戸後期になるまでは軟膏状の目薬が中心だったそうです。
16世紀には、蛤の片側に眼軟膏が入っており、使用の際には反対側の貝に少し取り適宜水を入れて薄め眼に塗るという方法をとっていた、伊勢国の「清眼膏」が目薬の原型と伝えられています。

江戸時代に入り、陶器製容器に軟膏を入れた目薬も出現しましたが、日本で初めての西洋式目薬は、1867年(慶応3年)にアメリカ人医師ヘボンから伝授され岸田吟香(新聞記者・事業家)が売り出した目薬「精錡水(せいきすい)」でした。
これはガラス製容器に、当時海外から入ってきたコルク栓を初めて利用した液体目薬で、かすみ目・はやり目をはじめ現在で言う結膜炎や角膜潰瘍などにも効き目があったといいます。

明治30年頃には精錡水は衰退しましたが、大阪・北浜で風邪薬を主力製品にしていた田口参天堂(現・参天製薬/1890年創業)が1899年(明治32年)に点眼方式の目薬を初めて開発し「大學目藥」として発売しました。なお、大學目藥はドイツのベルツ博士の肖像をイメージし、図案化したものを商標で売り出したとか。

その後、大阪・東心斎橋で胃腸薬の製造販売していた信天堂山田安民藥房(現・ロート製薬/1899年創業)が、ドイツのロート・ムンド博士の処方から誕生した「ロート目薬」を1909年(明治42年)に発売しました。なお、ロート目薬は、この博士の名前から新しい時代にふさわしいネーミングとして付けられたそうです。

1919年「大學目藥」広告
1919年(大正8年)「大學目藥」広告。出典:大阪毎日新聞。主力品の座をサンテに譲ったものの現在も市販されています
大正時代の目薬広告と目薬
1916年(大正5年)「ロート目藥」広告。出典:Flickr。「ロート目藥」出典:ロート製薬。「大學目藥」出典:参天製薬

明治大正期の目薬は、ガラス瓶にコルクで栓をした容器と点眼器で、綿棒に染み込ませた薬液を垂らしたり、スポイトで吸い取り点眼する方法の手間や衛生上の問題があるものでした。

1931年「高級新美眼藥スマイル」広告
1931年(昭和6年)「高級新美眼藥スマイル」広告。出典:Flickr

この時代、数多くの目薬が発売されていました。「スマイル」で知られる目薬は、かつては玉置合名会社で製造販売され、1972年(昭和47年)からライオン(株)より目薬のブランドとして販売されています。(モデルは女優の夏川静江さんだとか)

1931年「ロート目藥」
1931年(昭和6年)「ロート目藥」。出典:Flickr
1932年「大學目藥」
1932年(昭和7年)「大學目藥」。出典:Flickr

容器に問題があったことから、山田安民薬房が両口式点眼瓶を発明し1931年(昭和6年)に発売します。これは上下に口のあるガラス瓶を作り、上の口にゴムキャップをかぶせ、ここを押すと下の口から目薬が出る方式の画期的なものでした。しかし、戦中はゴムの供給が激減したため、指押し部の閉じた部分を軽く叩いて滴下する一口叩き式点眼瓶に取って代わられたようです。

戦後、両口式点眼瓶が復活しますが、昭和20年代後半からプラスティック合成樹脂が日本で使用され始めると、1962年(昭和37年)参天製薬が、軽くて割れにくく容器自体を指でへこませて適量を点眼しやすい、携帯性と透明性に優れたプラスティック容器を開発し「スーパーサンテ」を発売しました(大学目薬にも採用)。当時、爆発的な人気を博し“点眼容器の革命”といわれたようで、日本における目薬の普及が一気に加速したそうです。

山田安民薬房は戦後の1949年(昭和24年)に看板商品のロート目薬にちなみ社名をロート製薬株式会社に改称、1964年(昭和39年)にプラスチック容器を採用した充血にも疲れ目にも効くマルチ目薬「V・ロート」を発売しました。この目薬は、画期的な効能とテレビCMと軽快なCMソングが話題となり、目薬市場では戦後最大のヒット商品となったそうです。

昭和40年代になると目薬の分野でも多様化が進み、年齢や機能別にセグメントされた商品が次々に発売され、現在はパソコンやケータイの使用が日常化するにつれて現れた“目の乾き”というトラブルに対応した目薬などが人気となっています。

パソコンと眼鏡と目薬

一般用目薬で1位は国内シェア約40%のロート製薬で、世界では110カ国以上に展開しているそうです(アジア諸国では“目薬といえばV・ロート”と認識されているとか)。2位は参天製薬、3位はライオンになっています。そして、目薬の売れ筋ランキングでは、1位・ソフトサンティア5ml×4本(参天製薬)、2位・スマイル40EX15ml(ライオン)、3位・スマイル40EXマイルド15ml(ライオン)となっていて、ロート製薬は6位・ビタ40α12mlが初めてみえ、ちょっと意外でした。(ID-POSマーケティングの羅針盤・ウレコン、調べ。集計期間:2021年12月01日~2022年02月28日)
ちなみに、ドライアイ気味の自分はソフトサンティアを使っているのですが、この目薬は効くような感じがします。

しかし目薬というと、調子悪いとあびるように点してしまい、目尻からあふれ出したり喉に伝わったりして、本当は片眼に1滴で十分らしく、正しく点眼できている人は半分以下ともいわれているようです。案外知らない目薬の使い方、参考に参天製薬さんの「目薬(点眼液・眼軟膏がんなんこう)の使い方」などをみると、いかに間違っていたかが判りました。

また、目薬は目という“臓器”に直接使用するため注射液と同じく無菌製剤の製品、なので開封後は空気に触れると酸化や水分があるので細菌が繁殖しやすいらしく、早めに使用し、古くなったものは捨てたほうがよいそうです。

蛇足で、目尻(眦[まなじり]ともいう)とは耳に近い方の端のことをいいますが、同じ目の部分なのに鼻に近い方の端の目頭(めがしら)の「頭」と「尻(おケツ)」に分類されるとはずいぶんではないかとも思います。たぶん「頭」と「尻」は単に位置関係を表し価値観の違いはないでしょうが、目頭の方が「目頭を熱くする(泣きそうになる)」「目頭を押さえる(涙を抑える)」のように「頭」にふさわしい慣用句を作るのに対して、目尻は「目尻を下げる(だらしない笑い方をする)」「目尻の小じわ」などと、いかにもおケツっぽい使われ方をしている感は否めないかも。
なにはともあれ、「尻に目薬」になっちゃうから正しく点眼しないとね。

出典:おくすり博物館/参天製薬
出典:おくすり博物館/ロート製薬
出典:日本家庭薬協会/大学目薬
出典:日本家庭薬協会/V・ロート
出典:目薬
出典:日本語を味わう辞典

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