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人が集まるところに「提灯」あり!

人が集まるところに「提灯」あり!

赤ちょうちんに、ついつい引き込まれて仕事帰りにちょっと一杯、なんて経験がたくさんありますが(笑)、そんな赤い提灯は、茶店などの看板として江戸のころから親しまれていたそうです。
提灯とは持ち運んだり吊るしたりできる照明のこと。竹ひごに和紙を貼っただけのシンプルな作りです。
和紙を通した柔らかい光が、日本の夜を美しく照らしてきました。

提灯はいつ頃できた?

現在は“ちょうちん”を「提灯」「提燈」と用いていますが、古くは、「挑燈」「挑灯」「張燈」と書きました。なお、“ちょうちん”という言い方は鎌倉時代初期に起こったものだそう。
「挑燈」と書いたもので一番ふるい記録は、平安時代後期の1116年に書かれた「朝野群載(ちょうやぐんさい/詩文集)」だといわれています。
最初は、木枠に紙を張り吊灯籠(つりどうろう)のように一か所に掲げ置いたものでしたが、室町時代初期(1501~1504年頃)に、籠(かご)に紙を張り携行用の取っ手をつけた籠挑灯となりました。室町時代後期(1532~1555年頃)に、今日の折りたたむ提灯の原型のものが出来たと考えられ、手に提げる灯火具ということから、「提灯」の文字があてられるようになりました。葬儀の場で仏具のような役割を担っていたようです。

その後、安土桃山時代(1574~1600年頃)になると、細い割竹を丸く輪にした骨を作り紙を貼り覆いをして上下に自由に伸縮出来るようにし、底の部分にローソクを立てる様にする日本独特の構造を作りだします。祭礼や戦場といった多くの場で使用されるようになりました。

鷲神社の提灯
台東区のお酉様で有名な鷲神社

これが江戸時代中頃になると、和蝋燭(わろうそく)が大量生産できるようにり、在来の行灯(あんどん)に代わって携行用灯火具として一般に普及します。そして使用目的によって形や大きさの異なる多種多様な提灯が作り出されました。
ちなみに、灯油(ともしあぶら/菜種油など)を燃料にした行灯の明るさは豆電球(現在の60w白熱電球の1/50くらい)ほどしかありませんでしたが、それに比べ圧倒的な明るさを誇ったのが和蝋燭でした。

そして現在では、お盆やお葬式、お祭りや屋台などいろいろな用途で使われています。

盆踊りの提灯

なお、数え方は一張り(ひとはり)、一張(いっちょう)、一挺(いっちょう)、一丁(いっちょう)。骨組みに紙を張ったものなので「張り」「張」と数え、「挺(丁)」は手に持って使う提灯を数える語だとか。

出典:提灯博物館
出典:提灯の歴史

提灯の種類

17世紀初めに登場した「筥(はこ)提灯」はその名の通り、たたむと上蓋が下蓋にちょうどかぶさり丸い箱のようになります。有名な小田原提灯も筥提灯の一種で、安くて丈夫なことから旅の必須アイテムとして大ヒットしました。

そして17世紀半ば過ぎに「ぶら提灯」ができます。棒の先に球形や卵型の火袋(ひぶくろ/紙の覆いをした部分)をぶら下げた、シンプルで古典的な提灯です。元々は、お店がお客様の送迎時に足元を照らすために使われたそうで、明治時代には、寿司屋や蕎麦屋が夜の出前をするとき、必ずぶら提灯を片手に持っていたのだとか。

提灯の種類

やがて円筒形のものや上下が真鍮製のものも現われます。

長い竿の先に提灯がついた「高張(たかばり)提灯」、これは最初、武家で使われていましたが、その後、火消や芝居子屋、遊郭などでも使われるようになり、現代ではお祭りや葬儀の時に登場します。

弓形の取手が付いている「弓張(ゆみはり)提灯」、初めは武士が使用していましたが、後に火消し人足や御用聞き(御用提灯)など広く商家でも使用するようになりました。

馬に乗る時に両手があくよう提灯の柄を腰に差して使う「馬乗提灯」、柄に使われている鯨の骨は弾力があり、馬上で揺れても蝋燭の火が消えないようになっていたそうです。

18世紀初め頃できた畳んで懐に携帯できる円筒形の小形・軽便な「小田原提灯」は旅行用とされ、享保(きょうほう)年間(1716~1736年)から小田原名物として広く売られました。

そして、江戸時代の優れた発明品の一つ「龕灯(がんどう)提灯」、釣鐘形の枠の中に自由に回転できる蝋燭が取り付けられており、光が正面だけを照らすようになっていました。懐中電灯の元祖みたいなものです。どのように振り回しても、蝋燭の明かりが絶対に消えない巧妙なつくりになっており、目明(めあか)しなどが夜間の強盗の捜索に使用したそうです。なので「強盗(がんどう)提灯」とも書きます。

岐阜特産の提灯で、細い竹骨に薄い美濃(みの)紙を張り、花鳥草木の彩色絵を施した球形や棗(なつめ)形の吊提灯の一種「岐阜提灯」、これは盆提灯や装飾用として種々の形態・色彩のものが作られ、近年は海外への輸出も盛んです。
この他にも産地でいうと、福岡県八女市の「八女(やめ)提灯」、京都府の「京提灯」、茨城県水戸市の「水府(すいふ)提灯」、香川県の「讃岐提灯」、愛知県名古屋市の「名古屋提灯」などが有名です。

浅草雷門の大提灯
東京浅草雷門の大提灯

このようにバラエティ豊かに進化した提灯は、光源を蝋燭から電気に代えながらも様々な使われ方で今に受け継がれています。
出典:コトバンク/提灯

最後に

小さい頃、祖母の家でのお盆の時、夕方に墓参りのために提灯(盆提灯)を手に持ち、その夕闇せまる頃の提灯の明かりが思いのほか美しく幻想的な雰囲気だったのを思い出します。
盆提灯は、迎え火や送り火、また“先祖や故人の霊が迷わずに家まで戻ってこられるように”という意味の目印の役割があるのだとか。

飲み屋の赤ちょうちん

昔は照明具として無くてはならないものだった提灯ですが、“御神燈”と書けばお祭りの提灯になり、“やきとり”と書けば飲み屋さんの赤ちょうちんになります。提灯はどんな絵や文字を描くかで勇壮にも繊細にも用途や役割も変化し、化けてしまう面白みがあります。
そして、提灯があるところには人が集まるような気がします。提灯は、日本の暮らしと深く結びついていて今も特別な道具なのかもしれません。

薄い和紙が儚げでとても日本的な情緒を感じる提灯は、通常のライトだけの明るさと違って非常に落ち着きがある温かい明かりです。最近はロウソク型の電球が入っているものが主流で、洋間にも違和感のないデザインのものもあり、外国などでも人気があるそうです。
あの繊細な技術、日本伝統の照明としてもっと見直されてもいいかもしれませんね。

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