光の魔法を生み出す「障子」
障子というと、小さい頃にネコと一緒に障子紙をぶすぶすと破りまくった思い出があります。もちろん、ネコ(途中逃げだした)と一緒に怒られましたが(汗。
そんな何気なくいつもそこにあった建具の障子、ガラス戸やカーテンの登場と共に数を減らしてきましたが、近年になって情趣が増すとして見直されてきているそうです。
ちょっと歴史
和紙の繊維が光を拡散し、日ざしを上品な光に変えてしまう障子。「障(さえぎる)」「子(もの)」という名の通り、襖や戸、衝立など屛障具(へいしょうぐ)の総称でした。
平安時代中期に成立した源氏物語にも障子という言葉は登場しますが、現代の障子が生まれたのは紙を薄く漉けるようになった平安時代後期とされます。多く用いられるようになったのは和紙の生産量が増加した南北朝時代で、閉めても外の光が漏れ通ってくることから「明障子」と呼ばれました。
なお、「障子」という言葉は中国から輸入されたものですが、建具としては日本固有のものだとか。
詳しい歴史はこちらから→部屋を仕切る日本生まれの「襖」
障子は墨色の最も淡い部分
障子は、木製の枠に薄い和紙を貼った、部屋同士や屋内と屋外を仕切る建具です。
まだガラスが流通していない時代、外部からの視線を遮ったまま採光ができ、また障子紙には吸湿性や通気性があり、加えて断熱性も高く、湿度が高い日本の気候に適していました。
この多機能な障子は、明治時代に洋風住宅が広まっていきカーテンが普及しても、建具として組み込まれ、ガラス戸との併用で現在も使用されています。
確かに日本の気候に適し多機能な障子ですが、これほど長い間、家屋に組み込まれ愛されてきたのには他に訳があるような気がします。谷崎潤一郎が1933~34年(昭和9年)にかけて発表した「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」に、
もし日本座敷を一つの墨絵に喩えるなら、障子は墨色の最も淡い部分であり、床の間は最も濃い部分である。私は、数寄を凝らした日本座敷の床の間を見る毎に、いかに日本人が陰翳の秘密を理解し、光と陰との使い分けに巧妙であるかに感嘆する。
「日本座敷」より
この後に続く文からは、障子は外の光を弱々しいものに変え、その部屋は明るさを取り込まない暗い空間であることと同時に、独特の重厚感にも圧倒される和室への思いが記されています。日本家屋は質素で西洋人から見るとただ灰色の壁があるだけ、墨絵のような影の濃淡を可能としているのは障子で、それが日本家屋の装飾なのでしょう。
日本人は古来より陰を巧みに利用する事で、そこに様々な美や温かみのようなものを得てきたように感じます。光を反射させ煌びやかな美しさを求める西洋文化に比して、淡い光を取り込み、陰翳に目を凝らす事によってそこに光と陰の美しさを見出し、普段は意識していなくとも、何となく陰の中の美意識というのは長い年月を経て培われた日本美の哲学としてあるのでないでしょうか。だから今でも障子が使われているような感じがします。
自然豊かな四季折々の風景が、日本家屋のモノクロームの部屋から障子を開けた時、まるで一枚の絵画のように映えますよね。
障子に関する豆知識
断熱性を高める
温めた空気、冷やした空気の温度を維持するには、断熱性を高めることです。その簡単な方法が障子の二重貼り、厚手のカーテンよりも断熱性が高く、しかも採光が維持できます。
通常の障子紙の張り方ではなく、枠の両側から障子紙を貼るだけで間に空気の層ができて断熱効果が高まるのだとか。こうした障子は、昔から日本の家屋で使われてきたのだそうです。
また、すだれ素材を張り込むと風通しと採光を維持しながら、遮熱効果も。
こうした知恵、大がかりに家の改造はできなくても、自宅の障子の枠を使って、ちょっとした想像力で家の機能を補っていくことが手軽にできそうですよね。
敷居を踏んではいけない
子どもの頃、他人の家の敷居(引き戸・障子・襖などを開けたてするための溝やレールのついた横木)を踏んでしまって両親に叱られたことを覚えています。和室にまつわる礼儀作法で、他人の家に行ったとき、襖や障子などの敷居を踏んではいけないとされます。
理由についていくつか説があり、「敷居は部屋の中と外の間の結界、又お客様と主人を区別する結界なので、結界を踏むことは空間様式を崩すために踏んではいけない」や「家の建付(たてつけ/建具の開閉のぐあい)が歪む、そして磨り減ってしまう原因になるから」など、また「忍びの者が座の下に忍びこみ、畳の縁や敷居の隙間から漏れる光で相手の所在を確かめ、タイミングを見はからって刃を刺すこともあり、それを避けるための戒め」などの興味深い話もあります。
ちなみに、敷居と動揺、畳のへりも踏んではいけません。
障子の種類
代表的なものは、雪見障子(障子下部にガラスをはめ、障子を閉めたままでも外の景色を楽しむことができる)、書院障子(単純な格子形の組子ではなく繊細な彫刻や意匠が施されているもので主に書院造の部屋に設けられる)、額入り障子(障子の中ほどに額縁を設け中にガラスをはめ込んだ障子)、腰付障子(傷みやすい障子下部に板などを貼ったもの)、荒組障子(組子の間隔・数が大きめの障子)、横繁障子(横の組子の数が多い障子、関東地方で多い)、縦繁障子(縦の組子の数が多い障子、関西地方で多い)など。
一般的に住宅に多く使われているのは「荒間障子」でもっともスタンダードなデザインです。この他にも吹寄障子、桝組障子、猫間障子など様々な種類があります。
障子は心身に良い
カーテンなどがかかる洋間と和紙を使った襖や障子に囲まれた和室の中で、人の血圧を計ると洋間より和室の方が血圧が低くなるといわれています。特に柿渋(かきしぶ)染めには血圧を下げる効果の作用があるそうです。また、身体に有害なホルムアルデヒドや空気中のホコリ・ニコチンなども吸収し、脱臭性もあります。(これらの効果的に保つには、1年に1回の障子紙の張り替えが効果的だそう)
光を拡散するので部屋中に柔らかで温かみがある光が広がり、それがストレスを軽減し疲れを取り除く効果があると言われています。実際に病室に障子を取り入れる医療機関もあり、患者さんにとって落ち着ける環境作りに役立っているそうです。
最後に
最近では、障子紙も様々なものがあり、紫外線カット効果を加えた製品や色付きはもちろん透かし模様が入ったもの、花や景色が描かれたものなど、採光性とデザイン性を兼ね備えた紙を使えば洋室のインテリアにも合い、その選択肢も広がっています。
音や影の伝わる気配を感じる障子は外と内とをわずかに隔てる、やさしい“仕切り”じゃないでしょうか。そして、枠や組子の抽象的なデザインは和にも洋にも合い、影となって浮かび上がる幻想的な雰囲気を演出し、日本古来の「障子」は、モダニズムとさえ感じます。
デザイン性に富み、木や紙の自然味あふれる素朴な暖かさがあり機能的にも優れた障子を上手に用いれば、和モダンで洗練された心地よい家になりそうです。
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