日差しや熱を遮り風通しよく涼しい「すだれ・よしず」
日差しを遮光し風の通気、外気熱の遮熱、目隠し、虫よけなどの目的で使われる、すだれ(簾・簀垂)とよしず(葦簀・葭簀)。日本の夏には欠かせない、涼アイテムの自然素材のブラインドです。
すだれ(簾)は、細い葦(アシ、もしくはヨシ)または細く割った竹を糸で編んだもので横方向に垂らすような形で用いる“掛け簾(かけすだれ)”で、よしず(葦簀)は、3~4m程の長くて太い葦などの茎をすだれ状に編んだもので縦方向に立て掛ける形の“立て簾(たてす)”とも呼ばれ、特定の素材と使用方法で分けています。
蛇足ながら、イネ科の植物である葦(アシ、もしくはヨシ)は、本来の名前は“アシ”ですが“悪し”に通じる忌み言葉とされ、“ヨシ”と言い換えられて、こちらの呼び方も定着しているのだとか。
簾、葦簀の起源
すだれは漢字で簀垂とも書き、“簀”は“すきま”から出た言葉の元は敷物のことで、この遺物は縄文時代からあったようです。“簾(すだれ)”という言葉が最初に登場するのは奈良時代の和歌集「万葉集」で、〈わがやどの簾動かし秋の風吹く〉などをはじめとして簾をよんだ歌が数多くあり、すだれは日本で古くから使われていたと考えられています。
平安時代には「御翠簾(みす)」と呼ばれ、貴族の寝殿造りの屋敷や神社仏閣で室内の仕切りとして使われ、すまいの欠かせない調度品でした。
時代の流れの中で、すだれは室内調度品と日除け用の実用品として分かれ、それぞれ進化を遂げていきます。特に室内調度品のすだれは「御翠簾(結界として)」と「お座敷すだれ(おもてなし用)」に分かれ、ほとんどが国内生産として現在に至ります。
その当時の竹は、主に九州地方のみに植生していたらしく貴重な植物でした。「竹取物語」に代表されるように、竹は神の依代であると同時に呪力を持つと考えられていました。その貴重な素材である竹からつくられたすだれは、明治時代以前まで大衆の使用が禁じられていたとされています。一方で葦や蒲(ガマ・ミズクサ)の茎を使用したすだれは“簀(す)”と呼ばれ、主に日除けや目隠しとして大衆も使用したとされています。神聖な竹でつくる御翠簾とは明確に分けられていたと考えられています。
その大衆の使用が禁じられていた御翠簾は、奈良時代から伝わる原型をほぼ留めていて、室町以降普及する襖や障子より歴史が古く、現代に継承される室内高度品であり伝統工芸品になっています。そして、神域と俗界を隔てる“結界”の仕切りとして、神社仏閣において千年以上の時を経た現代でも使われています。
一方、よしず(葦簀)の起源は定かではありませんが、江戸時代以前から、葦(ヨシ)は屋根に使用されたり天井材などに使われていました。江戸時代には衝立としても利用され、また商店などの店先に立てかけて日よけ、囲いなどに使い、養蚕、農・漁業用にも利用されていったようです。
大きさや設置場所
すだれの大きさは、一般的に幅は88cmものが多く、長さは窓やベランダの大きさに合わせて選ぶことができます。よしずは、尺の単位で計り幅は6尺(約180cm)で統一され、高さは6尺(約180cm)~9尺(約270cm)とかなり大きいです。
すだれの設置場所は、主に窓やベランダの外側や内側、玄関先など室外と室内との境に設置されます。なお、外側の場合、10cmほど離して垂らすことで、窓との間に空気層を作り遮熱効果(断熱効果)が生まれます。現代の住宅で、遮光を目的に室内のブラインド等を用いますが、これは熱までは遮ることはできません。
また、本来の目的ではありませんが和風やアジアンテイストのインテリアとしても人気があります。
よしずの設置場所は、玄関先やベランダ、縁側など大きなスペースに立て掛けて使います。葦(ヨシ)の茎は太く中は空洞のストロー状、この空洞があることで、より高い遮熱効果が得られます。
つまり、軒先にすだれを垂らしその外側によしずを立て掛ければ遮光効果と遮熱効果が上がり、しかも風通しは良いのでかなり涼しくなります(おばあちゃん家がこのようにしていたので涼しかった記憶があります)。しかし、日射しが強くない時には室内が暗くなり過ぎてしまうので、必要ない時にすぐに外してしまえるような所に使うのがよいかもしれません。
最後に
近年、日中の日射しは強く蒸し暑さは増してきていますから、夏の室内を涼しく保つため、窓廻りに夏の日射しを遮る備えがあるかどうかは一層重要になってきています。
建築的な対応も必要なく、“すだれ”や“よしず”など状況によって付けたり外したりでき可変性があるので日射し除けに、エアコンにできるだけ頼らないエコとして、また換気も十分にできるコロナ対策としておすすめです。
それに、窓の外にこれらの日本の伝統的な暮らしの知恵、自然素材の風合いが加わることは、暮らす人の生活に温かみが感じられたり、親しみや懐かしさを覚えてよいものです。時には簾が風に揺れ、それを見ても涼しげで風情も感じられます。
最近、“日本製よしず”が良く売れているそうです。軽くて立て掛けても反らないし7年はもつ丈夫な“手作りのよしず”だとか(中国製は短めの葦を繋げて長くしてあるだけなので反るし壊れるのが早い、と聞きました。安価ですが)。ただ、職人さんの不足や前回の台風の影響で材料の葦が少なくで作る側が追い付いていない状況みたいです。
たぶん、今までの使い捨て安価なものに頼ってきてしまったツケがきたのでしょう。日本人の職人さんによる安心安全丈夫なものは少なくなりつつあります。
ブレーズ・パスカルの「人は考える葦である」とはいいますが、今、よく考えなくてはいけないのかもしれません。
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