消費ではなく今に適した「テーマパーク」とは
映画1本分程度の入場料金という手頃な設定で、ジブリ作品の世界観を再現したテーマパーク「ジブリパーク」が2022年11月1日に愛知県の愛・地球博記念公園に誕生するとか。万博後の跡地や施設を有効活用し未利用地を再整備して、5つのエリア全ては2023年に開業予定らしいという記事を目にして、ジブリ作品好きな自分としては今からとても楽しみです。
テーマパークというと「東京ディズニーランド」が有名ですが、あまりにも疲れたものだから駄々をこねる小さい息子と旦那を置いて一人ですたこらと帰宅した思い出があります。後で非難轟々、でも馬耳東風でしたが(汗。それ以来ディズニーランドは鬼門と感じ誘われても行くことはなく…、自分にはテーマパークの中で明治村が合っているようです。
ということで、ジブリパークのニュースをきっかけにテーマパークについて調べてみました。
宮崎駿監督のアニメ映画「となりのトトロ」に登場する昭和30年代の和洋折衷な文化住宅と言われる家を再現した草壁家の借家、サツキとメイの家(愛・地球博記念公園より)
テーマパークとは、テーマ(その全体を通して表わそうとした考え・思想・観念)によって全ての設備を組み立て、遊びを演出する大規模娯楽施設。つまりテーマの魅力にとらえられ、時間を忘れて物語の世界に浸ってしまうようにつくられた遊びの空間がテーマパークとされます。
ちなみに遊園地は、楽しく遊べるように色々な遊具(3種類以上で一貫性はない)や設備を備えた施設で、日本では1911年(明治44年)開園の宝塚新温泉(後の宝塚ファミリーランド。2003年閉園)が最初とされます。
そんなテーマパークのはしりは高度経済成長期の所得・余暇時間も増加していった頃、1961年(昭和36年)開業のディズニーランドの日本版と銘打った「奈良ドリームランド(奈良県奈良市、2006年閉園)」といわれ、その後、1965年(昭和40年)明治時代をテーマとして移築された建造物や歴史的資料の展示を行っている「博物館明治村(愛知県犬山市)」、1975年(昭和50年)東映京都撮影所一角に時代劇の撮影施設や映画関連の展示を一般公開している「東映太秦映画村(京都府京都市)」、1976年(昭和51年)江戸から大正時代の主に古民家建築をテーマとした「四国村(香川県高松市)」などが開業しました。
野外博物館・明治村はテーマパークの先駆けといわれ、現在、移築・復原した建造物数は60を超え、重要文化財に指定されたものが11件、それ以外のほとんどの建物も登録有形文化財になっています。写真は聖ザビエル天主堂の内部で、建物は聖フランシスコ・ザビエルを記念して1890年(明治23年)に京都に献堂されたカトリックの教会堂です。
時代劇撮影を見学し、時代劇の世界をオープンセットやイベント、アトラクションを通じて体験できる映画関連テーマパーク。写真は吉原遊郭のオープンセット。
四国民家博物館(四国村)は、広大な敷地に四国各地から移築・復元した江戸から大正期の民家・伝統産業施設・灯台などの建築物を展示する野外博物館。写真は重要文化財に指定されている旧河野家住宅。
日本にテーマパークという言葉が浸透するようになったのは、1983年(昭和58年)に開業した、ウォルト・ディズニーが描いた作品の世界観を表現した「東京ディズニーランド(千葉県浦安市)」で用いられるようになってから。また、遊園地とは区別された一つの業態として捉えられるようになり、この年はテーマパーク元年と言われています。
そして東京ディズニーランドのビジネス成功にバブル景気も追い風となり法整備(総合保養地域整備法が1987年制定)もなされ、1980年代半ば~90年代前半にかけて国内に多数のテーマパークがオープンし、テーマパークブームが起こりました。
しかし、90年代後半になると平成不況の影響による来場者の激減や、第三セクター方式により運営が立ち行かなくなった施設、また十分なリピーター(再入場者)を獲得するだけの魅力に乏しい施設なども見られ、多くが閉園や倒産に追い込まれました。
余談ですが、テーマパークはバブル期に各地に産声をあげた第三セクターの得意技としても知られています。第三セクターは、出資者である地方自治体などの官(第一セクター)と、企画運営者である民(第二セクター)が結合した三番目の事業体のことですが、今になってみれば、バブル景気をいいことに流行を追う外面だけ見かけ倒しの企画で、地方自治体を騙していた民間企業がいかに多かったかを示す、ご教訓のような組織となっています。
その中でも健闘しているのが1992年(平成4年)開業の敷地面積が国内最大規模を誇る「ハウステンボス(長崎県佐世保市)」、2001年に閉園した長崎オランダ村(1983年開業)がルーツで、中世オランダやヨーロッパの街並みを再現した滞在リゾート型です。
左側はホテル、向こうに高さ105mのオランダ最古とされるドム教会の鐘楼をモデルにしたドムトールン、これはハウステンボスのシンボルタワーになっています。
バブル崩壊とともにテーマパーク建設はやや熱を失ったものの、2001年(平成13年)には映画の世界を体験できるテーマパークとして「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ/大阪府大阪市)」が、同年、冒険とイマジネーションの海がテーマの「東京ディズニーシー(千葉県浦安市)」が開業、こちらはディズニーランドと2つのテーマをもつ東京ディズニーリゾート(TDR)となり、現在この二つのテーマパークは来場者が落ち込まず運営的に一人勝ちのようになっています。
映画『シンデレラ』に登場する城をモチーフとしているTDLのシンボル・シンデレラ城は、最高地点高さ51m、城を実際よりも高く見せるため、石垣や窓や扉の大きさが上に向かって徐々に小さくなる遠近法が使われています。2012年からプリンスをモチーフにしたウェディングドレスで結婚式を挙げられることで人気。
メインエントランスにあるTDSのシンボルになっているのが直径8mの地球儀アクアスフィア。水(aqua)+球体・天界(sphere)を組み合わせた造語で地球を象徴しているとか。TDLを誘致したオリエンタルランド元社長・高橋政知氏は直径50mを希望していたようで、実現したら大変なことになっていたそうです。
ちなみに、TDRとはディズニーブランドのキャラクターたちが、太鼓持ちのようにあの手この手でゲスト(客)のご機嫌をとって喜ばせてくれる子どものための色街のような…つまり子どもだましの王国。TDLに限っては、「大人が興奮し、子どもを押しのけて楽しもうとしている様子を見て、子どもが“しらける”という感情を学習する場所」なのかもしれない(汗。
そしてUSJ・TDRのような大規模テーマパークは、既存のレジャー施設に比べて施設開発・整備に多額の投資をしているがゆえにチケット共に客単価は高く、また大人の客が比較的多いのが特徴のようです。
左が2014年オープンの『ハリー・ポッター』シリーズをテーマにした映画に登場するホグワーツ城、右がUSJのシンボルであるユニバーサル・グローブ。これは映画会社ユニバーサル・スタジオのオープニングロゴを模している地球儀だとか。
なお、世界のテーマパーク入場者数2019年ランキングでは、東京ディズニーランドが3位、東京ディズニーシーが4位、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンが5位につけています(出典:Themed Entertainment Association)。国内では他に、ハウステンボス、サンリオピューロランド(東京都多摩市に1990年開業した、サンリオキャラクターをモチーフとした屋内型テーマパーク)、志摩スペイン村(三重県志摩市に1994年開業した、明るい太陽と海辺というイメージのスペイン文化をテーマに取り入れた複合リゾート施設)などが健闘しています(出典:綜合ユニコム株式会社)。
現代では、大規模なテーマパークは失敗すると損害も大きいので手を出す企業や地方自治体も少なくなり、今ではパーク(公園)とは呼べない規模の商業複合施設や専門店や飲食店コンプレックスなど、ちまちました屋内型施設も「テーマパーク」と称するようになり、意気込んで掲げた看板のダウンサイジングとリサイクルが始まっています。
そして、長期の経済不況のためレジャーに対する出費を押さえている傾向にある中、現在のテーマパークの入場料金やアトラクションの利用料金は決して安いとはいえず、なので現代に必要とされるのは消費ではなくニューノーマル時代の“低予算で十分楽しめるテーマパーク”だと思います。その点では、11月に開園する「ジブリパーク」は手頃な値段で自然と公園とジブリ作品にふれられる、今に適したテーマパークだと感じました。
また最近は、企業の自社製品やサービスに関する体験をテーマパーク化した企業ミュージアムの開業が各地で相次いでいるそうです。今後、テレワークの普及による郊外志向の加速や休暇取得がより柔軟化されれば、テーマパークに対するニーズはより多様化していくのかもしれませんね。
出典:テーマパーク
出典:テーマパーク/コトバンク
出典:多様化が進む遊園地・テーマパークの現状と展望
出典:テーマパークとは?
出典:日本語を味わう辞典
-
前の記事
魅惑的で怪しげな力を持つ「骨董」、でも人によってはガラクタなモノ 2022.01.28
-
次の記事
儀式や作業の場から始まった「庭」について 2022.02.11