自然がつくる合理的なパターン「麻の葉文様」の六角形
平安時代にはすでに、仏像などの装飾品に描かれていたこの六角形の幾何学文様、この形状が植物の大麻(おおあさ)の葉に似ていることから「麻の葉文様(麻柄)」として親しまれてきました。
なお、大蛇のウロコが発祥で魔よけの意味がある三角形「鱗文(うろこもん)」の集合模様でもあります。
菱形の連続で構成されいくつも永遠とつなぎ合わせることができる単純さは「麻の葉繋ぎ」や「麻の葉くずし」とも呼びます。
麻は過酷な環境でも約100日で3-4mにもなり、まっすぐグングン伸び生命力がとても強いことや、虫が寄り付かないことから虫気(むしけ/腹の中にすむ三尸(さんし)の虫によって起こると考えられた痛みを伴う腹の病気)がおきないようにと、子どもの健やかな成長を願い産着の柄に使われました。
江戸時代の腹の虫の記事はこちら→不思議と愛着が沸くようなキモ可愛い「ハラノムシ」
他にも、古く仏教で使われていたことや虫がつかない植物として、また模様そのものにも穢(けが)れを強く祓うとして神聖視されており、厄除け・魔よけの意味もあり、お祓いやしめ縄、鈴縄、縁起物など、建築デザインや染織、伝統的な工芸品など、様々なものに使われています。
この文様は江戸時代の文化・文政期(1804~1830年)に流行したようで、1809年に歌舞伎役者の女形として活躍した五代目・岩井半四郎が「八百屋お七」を演じた際、鹿の子絞りで麻の葉文様があしらわれた衣装を着たことから、それが大いにあたり、江戸の婦女子の間で大流行したんだとか。
下記は麻の葉文様の組子欄間ですが、麻の葉文様には色々なバリエーションがあります。単独でも家紋として使われ、白黒反転したもの「陰(かげ)麻の葉」、五角形の「麻の葉桔梗」、三菱型に塗られた「三つ割り麻の葉」、「丸に麻の葉」などがあります。
「欄間」の記事はこちら→光や風に表情を与える小さな窓「欄間」
また、麻の葉文様に似ている図形で、六角形の左右対称な構造が花のようなパターンで描かれていて、古代から装飾モチーフとして使われていたフラワー・オブ・ライフがあります。エジプトの古代寺院やイスラエルの古代ユダヤ教会といった宗教的な場所で用いられた神聖幾何学を代表するスピリチュアル系図形で、「完全なる調和や宇宙や生命の神秘をあらわし、その力を活性化させる」と云われています。
ちなみに、陰陽道(おんみょうどう)の風水では、「六角」は幸福を招くと言われています。そして、故事の時代、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の折り、五位木(こいぎ)という六角形の御箸を用いられたことから、六角形に縁起の良いイメージがついたのではと云われています。
自然界で六角形といえば、ハチの巣・亀の甲羅・雪の結晶・昆虫の複眼・玄武岩の柱状節理(マグマがゆっくりと一様に冷却された時に入る亀裂)などよく見られる形です。
ハチの巣が六角形の理由は…結論から言うと、巣を最小の材料と労力で作り上げることができるから、のようです。
平面に隙間なく敷き詰め空間を無駄なく使うことのできる正多角形は正三角形と正方形、そして正六角形しかありません。隙間なく詰めるには内角を合わせたときの合計が360度になる必要がり、正三角形は60度×6個、正方形は90度×4個、正六角形は120度×3個となります。その中心点から伸びる接続線(壁)は正六角形の場合が一番短く、また同じ面積の図形において周の長さが最も短くなるのが円なのですが、正六角形は円に近い形をしているため、同じ空間を作るときの壁の長さが3つの正多角形の中で最短になります。(1c㎡を作る時の外周は、正三角形は約4.5cm、正方形は4cm、正六角形は約3.72cm)
なので、ハチにとっては材料が同じ量(同じ外周)であれば他より広い面積を作ることができるので、最も効率の良いかつ合理的な形が正六角形だったと考えられます。
ただ、強度だけをとると正三角形が一番強く、それには劣りますが正六角形を平面充填(隙間なく敷き詰める操作)した場合は変形しにくくなり、衝撃吸収力が増すのだとか。
このハチの巣みたく正六角形を隙間なく並べた構造をハニカム構造(honeycomb structure)と言って、名前の由来はまさしくハチ(Honey)の巣(Comb)という意味から来ています。
現在、正六角形または正六角柱を隙間なく並べた構造のハニカム構造は、軽くて強度があり、音や衝撃を吸収できて断熱効果もあるという理由から、飛行機の翼や、宇宙に浮かぶ人工衛星の材料、新幹線、建造物などの構造材料としても幅広く利用されています。余談ですが、全体がその六角形の結合からなる新素材・カーボンナノチューブは、アルミニウムの約半分の軽さ、鋼鉄の100倍の強度、ダイヤモンドの2倍の硬さを持ち、実用化されれば地球と宇宙ステーションを結ぶ軌道エレベーターにも利用される見込みだとか。
他にも、雪の結晶は“水分子”が120度の角度を持ってるから、それが作る結晶は六角形ベースのパターンになったりします。
“泡”で見ると、1つだけだと球ですが、2つがくっつくと間に平面ができ、同じ大きさの泡が3つ、くっつくと、120度の角度をなす平面でき、この調子で、泡をドンドン繋げていくと六角形になります。興味深いことに、たとえ同じ大きさの泡でなくても辺が五つや七つの欠陥品でも、接合点は三つの壁が約120度の角度で接すると決まっているようです。
おそらく、“細胞”や“種子”や“昆虫の複眼”などギッシリ隙間無く並ぶとき、最も効率が良く、最も安定する空間構造形が“六角形”なのでしょう。
人間が誕生する遥か以前から自然は効率の良い合理的な六角形を確立していて、だからこそ畏敬の念をもってフラワー・オブ・ライフや麻の葉文様、六つ目編みの籠目文様や六芒星などに縁起物としての思想を見出したのかもしれません。
合理的な自然界の法則からすると、人間は情緒的なもの、信念的なものの非合理的なのでしょうね。なので、そのようなおまじないや魔よけを持ったり着けたり飾ったりとか、思い込みは病をも治すといわれているので良いような気がします。
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