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長期の保存が可能な「缶詰」はレーションから

長期の保存が可能な「缶詰」はレーションから

仕事が忙しくて部屋の中にこもりっきりになることを「缶詰めになる」、人が混雑してぎゅうぎゅう詰めになることを日本では「すし詰め」と言いますが、欧米では「缶詰めのイワシのよう」というそうです。

レトロな商標ラベル
京都の骨董市で買った昭和20~30年代のレトロな商標ラベル

ということで、缶詰の日本初は、このイワシの缶詰だったという。
1871年(明治4年)に長崎県の松田雅典(まつだまさのり)という人物が、イワシのつばき油を使った油漬けの缶詰を初めて完成させました。
本格的な缶詰の生産が始まったのは1877年(明治10年)、北海道で日本初の缶詰工場、北海道開拓使石狩缶詰所が誕生したことによります。同年10月10日にサケ缶詰が製造され、その後缶詰が工業的に生産されるようになり、日本各地に広がっていきます。
なお、この明治10年(1877年)10月10日は、日本で最初に缶詰が商業生産された日ということで1987年(昭和62年)に「缶詰の日」に制定されました。当初は缶詰を“管詰”と綴られていたそうです。

そして、この缶詰は1894年(明治27年)からの日清戦争や、1904年(明治37年)からの日露戦争では、兵士の常用食として重宝されました。
元々、缶詰開発のきっかけとなったのはレーション(軍隊で配給される携帯用の食料)で、軍隊の遠征における食料補給の問題に悩まされていたフランス皇帝ナポレオンが「兵士の行軍に携行できる、塩蔵や干物などに代わる新たな食材の保存方法を編み出したものに賞金を授ける」とのお触れを出したところ、1804年にフランスの菓子職人ニコラ・アペールにより長期保存可能な瓶詰めが発明されました。
その後、割れやすく重い瓶詰めから、1810年にイギリスのピーター・デュランドがブリキ缶を用いた「缶詰」を発明し特許を取得、「Tin Canister」と名付けられました。英語の「Can」という語は、この名前を省略したものだそうです。
ちなみに、1858年にアメリカのエズラ・J・ワーナーにより「缶切り」が発明されるまでは、開封には金鎚と鑿(のみ)で、戦場では銃剣でこじ開けたり銃で撃って開けたりしていたとか。さらに、その後、缶切りが無くても開けられる様にイージーオープンエンド(パッ缶と言われた)が1959年に発明されました。

「ゲイルボーデンイーグルブランド練乳」広告
「ゲイルボーデンイーグルブランド練乳」広告カード。(1887年)出典:ボストン公立図書館
「ハインツ、トマトスープ缶詰」広告
「ハインツ、トマトスープ缶詰」広告カード。(1870~1900年)出典:ボストン公立図書館

明治時代は、主に国外向け輸出用で国内向けには軍需用として生産され、また白米1升が7.65銭の当時ひと缶が20銭から35銭と高価な食品なことから庶民には普及しなかったようです。
本格的に普及するきっかけは、1923年(大正12年)の関東大震災以降で、アメリカから送られた支援物資に缶詰があったことによります。
昭和の初期までは、サケ、カニ、マグロ、イワシ、みかんなどが缶詰になって重要な輸出品として海外へ輸出されていましたが、昭和30年以後は国内向けが多くなり様々な缶詰が消費者に供給されています。
なお、それまで好調だった魚類の缶詰の輸出に関しては、1976年(昭和51年)から1977年にかけて決定された200海里漁業専管水域の設定により壊滅的な打撃を受けたようです。

「リビーの調理済みコンビーフ」広告
「1878年パリで最高の金メダルを獲得。リビー マクニール、リビーの調理済みコンビーフ」広告カード。(1870~1900年)出典:ボストン公立図書館

もう一つ、白と緑を背景に牛のイラストが描かれたレトロなデザインの、あの巻き取り鍵でくるくると開けるのが面白いコンビーフ缶詰について…

コンビーフが注目されるようになったきっかけは、戦後で、軍用食として使っていたアメリカ軍が民間に放出したことによります。もしかしたら上記のリビー社製コンビーフ缶詰だったかもしれません。食料不足が当たり前だったこの頃、栄養価の高いコンビーフはかなりの貴重品だったようです。最初に商品化したのは、山形県にある缶詰メーカーの日東食品製造株式会社(現・日東ベスト)で、缶を作るブリキがなかったのでコップ型ガラス瓶とブリキ製の密閉蓋の商品でした。その販売を担当したのが商社として缶詰商品を扱っていた野崎産業で、販売は1948年(昭和23年)、これが国産コンビーフの第1号になります。

ノザキのコンビーフ

戦後のブリキの供給が改善された1950年(昭和25年)、あの形状で有名な今も販売されている牛肉100%の「ノザキのコンビーフ」が野崎産業(現・川商フーズ)から発売されました。
江戸時代に使われていた箱枕に似ていることから日本では“枕缶”と呼ばれている台形の缶(この形は世界共通なのだとか)、昔は手作業で缶に肉を詰めていたので、太さが一定の缶よりも、詰め口が広い台形の缶の方が空気を抜きやすく、また、台形なら底蓋の方から中身をスムーズに取り出すことができる、という理由からこの形を採用しているそうです。

そして、あの独特の開け方の、側面周囲に入れられた線(巻き取り線)を缶に付属の鍵でくるくると巻き取り上下にカパッと開ける方式は、形を崩さずに中身を取り出すためで、また缶切りを使わずに開けられるという利便性もあったようです。
しかし、この形状の缶詰は、もう見られなくなりそうです。2020年1月に製缶ライン設備老朽化によりパッケージリニューアルという発表があり、在庫がなくなり次第販売終了するとのこと。
あの特殊な開け方の缶がコンビーフの醍醐味だったのに、体験ができなくなるのは残念なことです。

イワシの缶詰、オイルサーディン

缶詰と言われてやはり思い出すのは、魚や果物の缶詰ですが、いま日本で売れている缶詰の9割近くは飲み物の缶詰(缶飲料)で、残りの1割が食品です。業務用のものでは調味料や食用油の缶詰もあります。現在はパン、水、ケーキなどや、おもちゃや種を植えた培養土などの食品ではないものを詰めた缶詰もあります。
缶詰の種類では世界で1200種前後、日本では約800種もの缶詰が出回っているとか。
ちなみに、かなり珍しい変わりもの缶詰では、ローストしたサソリ缶詰、チーズバーガーの缶詰、バンブーワーム(蛾の幼虫でタイやミャンマーに生息)の缶詰、トナカイ肉の缶詰、カエルの脚肉、バッタのレッドカレー缶詰、スモークしたガラガラヘビ(毒蛇)の肉などなど、ちょっと食欲が失せるものまであります

とはいえ、食品の缶詰でいえば(瓶詰やレトルト食品も共通ですが)、“水や空気や細菌といったものが侵入できない密封容器である”ことや“加熱殺菌した食品で保存料などを使っていない”、“空気を出来る限り取り除くので栄養成分を損ないにくい”などの特徴があります。
なお、密封後に加熱殺菌を行なわないものは缶入りといい、世界で一番臭いといわれている食べ物の「シュールストレミング(生のニシンを塩漬けにして缶の中で発酵させたもの)」は殺菌工程を経ていないのでJAS規格上は缶詰ではありません。

そして魅力は、簡単に食べられ輸送しやすく長期の保存が可能なことで、大半は2年~3年程度の賞味期限が設けられており、最近では保存食に特化した5年の賞味期限の缶詰もあります。賞味期間でいえば、瓶詰では約半年~1年程度、レトルト食品では1~2年程度を設定したものが多く、缶詰が一番長いとか。
また、本来は食べることが難しい魚の骨などの固い部分も食べられるので、食品の廃棄部分が少なく、栄養も効率よく摂ることが出来ます。

賞味期間(おいしく食べられる期間)を考えなければ、“未開封であれば半永久的に喫食可能”であり、空き缶も回収・リサイクルでき、缶詰は、かなり優秀な保存食品といえそうです。
なのでこれからは、地球環境保全などにつながる缶詰は、食品・飲料水の保存に主役となっていくかもしれません。

出典:日本缶詰びん詰レトルト食品協会
出典:缶詰
出典:ノザキのコンビーフ歴史
出典:コンビーフ

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