誰かに作ってあげた、又、作ってあげたい「カルピス」
カルピスというと、やはり水玉の包装紙で包んだ瓶入りを思い出します。
お中元なんかで届いた箱を開けると、ズラリと並んだカルピス、中でも色が付いたオレンジカルピスがお気に入りでした。
夏になると今でも、プラスチック素材で軽くになってしまったカルピスを買ってしまします。
そんなカルピスも昨年100周年、ジブリ映画「火垂るの墓」のワンシーンに出てくるほど歴史があります。
内モンゴルの伝統的な「酸乳」をヒントに、日本初の乳酸菌飲料として1919年(大正8年)7月7日に「カルピス」という商品名で発売します。
「カルピス」という名前は、カルシウムの「カル」と、サンスクリット語のサルピス(熟酥=じゅくそ)の「ピス」から命名されました。仏教の世界で、最も高位とされているのは「サルピルマンダ(醍醐味)」、次位が「サルピル」。なので「サルピル」にしたかったところですが、響きがよい「カルピス」にしたとか。
なお、カルピスの元となった脱脂乳を乳酸菌で発酵したもの「醍醐素(だいごそ)」という飲料は、1917年に発売されましたが、あまり売れなかったという。
最初に発売されたカルピスは、ミロのビーナスが描かれた化粧箱にウイスキーの瓶のようにどっしりとした形の400ml入で1本1円60銭でした。当時、ラムネが8銭、サイダー22銭、牛乳10銭ということから、高級品で“裕福な家庭の飲みもの”というイメージが強かったようです。
1922年(大正11年)、あの「初恋の味」というキャッチフレーズを添えて新聞広告に載せます。このキャッチフレーズは当時としては斬新で、世論を二分するほど話題になり、大正ロマン主義や自由思想の台頭と相まって、瞬く間に日本中に広がっていきました。
また同年、箱の代わりに水玉模様の包装紙が使用されるようになります。これは、発売された7月7日の七夕にちなんで天の河・銀河の群星をイメージしていて、当時は青地に白の水玉でしたが戦後の1953年(昭和28年)に現在の白地に青の水玉へデザインが変更されます。白地は原料の生乳を想起させ、カルピスの爽やかさを引き立たたせるためだったとか。
1924年(大正13年)、ドイツ人画家オットー・デュンケルスビューラーがデザインした黒人ロゴマークが登場します。長年カルピスのトレンドマークとして親しまれてきましたが、1990年(平成2年)に差別問題から自主的に使用を中止してしまいました。また、この頃からスッキリと細身の瓶になっていきます。
1928年(昭和3年)、カルピスの小ビン(ポケットタイプ)発売。“朝顔グラス”も話題になりました。
1932年(昭和7年)には“赤色の地に白の水玉模様”の通常のものより容量が少ない廉価版も発売されています。
水玉もドットのように整列したものではなくランダムに配置してあるそうで、数や大きさも時代によって異なるという。1989年(平成元年)のは水玉がひと回り小さくなっていたりします。
その後も1997年(平成9年)、ラベルにカルピスのもうひとつの代名詞的存在である“朝顔グラス”が加わり、2004年以降、瓶入りカルピスは紙パックやプラスチックボトルに移行していき水玉模様の包装紙も見なくなりましたが、2007年には天の河をイメージしたイラストが追加されたりして、時代に合わせて少しずつ変化していきながら現在の形になりました。
もはや不動のものといえる“カルピス=水玉模様”のイメージパッケージ、キャッチフレーズ、発売から3年にして「カルピス」のブランドとしてのアイデンティティが確立されていたように感じます。
昭和30年代までは、「カルピス」はお祝い事やお客様が来た時の“特別な飲み物”という印象が強く、贈答用に使われることも多かったようです。
一般家庭で普通に飲まれるようになったのは昭和40年代。1964年(昭和39年)から10年間価格を据え置いたこと、1969年(昭和44年)から始まったテレビ番組「カルピス劇場(ムーミン、アルプスの少女ハイジ、フランダースの犬、といったアニメ)」などの影響もあってファミリーイメージが定着し家庭に普及します。また、同年オレンジカルピスとグレープカルピスも登場します。
カルピスソーダ(1974年発売)もカルピスウォーター(1991年発売)も美味しいですが、やはり、カルピスを希釈して飲みたくなったりします。濃い目に作ったり薄めに作ったり、炭酸水や牛乳で割るとか、ヨーグルトのソースや手作りのシャーベットにと、アレンジできることが楽しいですね。
また、水で希釈してかき混ぜて飲む「体験」が伴うカルピスの最近の研究では、親子や兄弟で一緒に作って飲む楽しい体験が、思いやりの心を育み、大人になってからの幸福度が高いというデータもあるそうです。
お母さんに作ってもらったうれしさ、氷を回した時のカランという音、そして甘酸っぱい味と香り。一つひとつの思い出とともに、心にもおいしい「カルピス」が出来上がる、家でかき混ぜて「みんなで飲む」という家庭の原風景だと感じました。
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