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年末に行う大掃除は「妖怪除け」からだった⁈ 

年末に行う大掃除は「妖怪除け」からだった⁈ 

電気のない時代は室内の照明には油脂やロウソクを、暖房や調理には囲炉裏や暖炉を利用するのが一般的で、油脂や薪や木炭などを燃やした際に黒煙が発生し天井は煤(すす)で黒く染まったそうです。この煤汚れを人々は年末の大掃除の際に長い竹ボウキやハタキを使って払い落としていました。

この年末に行われる大掃除、由来は「煤(すす)払い」と呼ばれる年中行事からきています。
「煤払い」は“煤掃き”、“煤納め”ともいい、始まりは平安時代の宮中行事からと言われています。
平安時代中期の法令集「延喜式(えんぎしき)」には手順など詳しく書かれていて、単に宮中を掃除するというだけでなく、厄払いの意味が強く込められた儀式として捉えられていたようです。古い道具は、“100年使うと妖怪に変化して怪異をなす”、という言い伝えから道具を年末に処分する風習(妖怪除けの一種)も関係しているそうです。
ちなみに、神社仏閣の境内で行われる蚤の市(のみのいち)は道具を捨てる風習が変化したものだとか。また、他人に譲ることで道具に新しい命が宿るとされます。

室町時代に入ると「煤払い」は神社仏閣を中心に、仏像や本堂を清める行事となりました。なお、仏像の掃除は「御身拭い(おみぬぐい)」とも呼ばれています。

庶民の間にこの習慣が根付き始めたのは江戸時代、江戸城をはじめとして12月13日が煤掃きと定められ行なわれるようになりました。この日は、太陰暦では、何事にも吉日とされる「鬼宿(きしゅく/二十七宿、後に二十八宿の一つで、鬼が外に出ない日)」に必ず当たり、当時の人々は半月かけて行われるお正月準備の最初に行うのが「煤払い」でした。これは徒弟などの奉公人が新年に里帰りできるよう、旅路の時間を考慮して行われていたからともいわれています。
余談ですが、12月13日が吉日になった理由は、諸説ありますが、お釈迦様の誕生日が鬼宿日だったことからきているようです。

単なる掃除とはちがって、1年の厄を祓い、年神様を迎えるための「十三日節供(せっく)」などとも呼ばれる一種の神事の神聖な儀式であるため、この日に使用される箒(ほうき)は新しく切り出した笹竹を使い、神棚や竈(かまど)などといった神の宿る神聖な場所から始められました。
煤払いの後には「納めの祝い」と称して、食事や酒が振る舞われ、時には胴上げや隠し芸なども行われていたようです。

「武家煤払の図(一部)」喜多川歌磨 画
「武家煤払の図(一部)」喜多川歌磨 画(1800年代)出典:東京国立博物館

姉さんかぶりとほっかぶりの女性が、畳を上げてホコリを叩き出そうとしているようです。右下にはネズミを追い払う様子が…。

「武家煤払の図(一部)」喜多川歌磨 画
「武家煤払の図(一部)」喜多川歌磨 画(1800年代)出典:東京国立博物館

“突くやつを突かぬで煤がはかどらず”煤掃きが終わると主人を胴上げし羽目を外すというのが、武家、町人に共通な風習だったようです。

「冬の宿 嘉例のすゝはき」歌川豊国 画
「冬の宿 嘉例のすゝはき(一部)」歌川豊国 画(1855年)出典:東京都立中央図書館

絵の左下には重箱入りの握り飯と、煮染めらしいものが見えます。幕末の江戸の風俗を記した「江戸府内絵本風俗往来(1905年)」には煤払いの食べ物について、“煤払いの式の膳部は里芋・大根・牛蒡・人参・焼豆腐・田作(ごまめ)の平盛(ひらもり)、豆腐の味噌汁、大根・人参・田作の生酢、塩引鮭の切身の調理にて酒を汲む。勿論家例により大同小異ありと知るべし。また町家にては蕎麦の振舞あり”、とあります。そしてこの他、煤払いには鯨汁(クジラ汁)が付き物という記録もあります。

「冬の宿 嘉例のすゝはき」歌川豊国 画
「冬の宿 嘉例のすゝはき」歌川豊国 画(1855年)出典:東京都立中央図書館

解説によると、この錦絵が刊行されたのは安政の大地震の翌月、1855年(安政2年)11月のこと、左図の背景に浅草寺の屋根や五重の塔が見えることから猿若町の様子を描いたもので、大地震後の混乱した芝居町の役者達の無事を人々に知らせるために制作されたと言われています。

神社の煤払い

やがて煤を払う必要がなくなってからは、一般家庭で行事を行う必要性が薄まり、近年は正月休みに入る12月28日~30日に多く1年の終わりの大掃除と、宗教行事に分けられるに至ります。
現在も神社やお寺などではロウソクや線香など火を焚く場面は多く、また伝統行事や大掃除を兼ねて12月13日に煤払いの行事が行われています。

「となりのトトロ」まっくろくろすけ
「となりのトトロ」出典:ファンCaps.net

動き回ると煤やホコリを出すが人間に対して害をなすことは全くといっていいほどない黒くて丸いキャラクターの架空の妖怪(付喪神・つくもがみ/長い年月を経た道具などに精霊や霊魂などが宿ったもの)、映画「となりのトトロ」に出てくる“ススワタリ=まっくろくろすけ”は、こんな天井にたまった煤をイメージして作られているのかもしれませんね。

現代は伝統が希薄になっていますが、お部屋を綺麗にして気持ち良く新年を迎えるという意味や、1年の災厄を振り払うといった意味合いも含まれていて大掃除は大事な行事だと感じました。
とはいえ、煤払いは、新たにことを起こしたり重要な儀式の前に身を清めるという日本人の宗教的伝統がもたらした弊害であり、くそ寒い日に窓ふきなどをやらされ、正月には風邪で寝込むことになるという、あまり合理的とはいえない習慣、とも言えるかもしれず、実際に毎年風邪をひいてしまう自分がいます(汗。

出典:煤払い
出典:掃除
出典:株式会社テラモト
出典:日本語を味わう辞典

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